前回記事ではシンガポールMRTの乗り方など一般的な説明をしましたが、今回は路線・車両などややマニアックな内容について紹介します。
シンガポールの鉄道基礎知識
シンガポールMRTの総延長は2024年時点で216kmもあり、東京の地下鉄(東京メトロ+都営地下鉄)の3/4程度に相当します。路線は南北線・東西線・北東線・環状線・ダウンタウン線・トムソン東海岸線の6つ存在します(本当は路線名は英語なのですが、分かりにくいので便宜的に日本語訳しました)。
しかも、路線図を見て頂くとわかるとおり、建設中の路線が数多くあります。経済成長の著しいシンガポールでは、日本のように予算の都合で建設が凍結されるようなことはほとんどなく、数年すると東京の地下鉄の総延長に追い着くことでしょう。
ちなみにMRT以外の鉄道としては、隣国マレーシアのジョホールバルとを結ぶ国際列車(マレー鉄道)もあります。国際列車といっても、マレーシアとの間にある幅の狭い海峡を渡るだけのもので、走行距離はわずか5分程です。
この列車は、かつてシンガポールの中心近く(東西線のTanjong Pagar駅付近)にあるターミナルにまで乗り入れていましたが、今はマレーシアとの国境付近に駅が移動し、シンガポール国内の大半の区間は廃止されてしまいました。
シンガポールMRT6路線の紹介
次に、以前訪問した際に撮影した写真も掘り起こしつつ、地下鉄各線を紹介します。
各線共通の事項
各路線とも車両は4ドアのロングシート車で、車体のサイズ・集電方式(第三軌条)はほぼ共通です。東京の地下鉄と違って車体全体が飛行機のように丸みを帯びており「下膨れ」になっているため、車内のキャパはやや広めとなっています。
車両編成は南北線・東西線・北東線が6両、環状線・ダウンタウン線・トムソン東海岸線は3両です(本当は路線名は英語なのですが、分かりにくいので便宜的に日本語訳しました)。なお、南北線と東西線には混雑対策のためか、一部座席が撤去されている車両もいました。
北東線以降に開業した路線は、日本の新交通システムのような自動運転を採用しており、先頭部は無人となっています。開業が古い南北線と東西線は運転士が乗務します。
地下区間の駅はほぼすべて東京メトロ南北線のようなフルスクリーン式のホームドアを備えています。以前は金属柱が目立つ武骨な造りでしたが、最近開業した路線は大型のガラスを多用しています。また、ドア周辺への広告の貼り付けも目立つようになりました。
地上区間はかつてホームドアがありませんでしたが、今は全駅に設置されています。よって、駅での車体の写真撮影は難しい状況です。
南北線(North South Line)
南北線は後述する東西線と共に最初期からある路線で、駅構内は他路線に比べ若干古びています(とはいっても日本の地下鉄の中だと新しい部類に入りますが)。
政治経済の中心であるRaffles PlaceやCity Hallと、古くから商業の中心であるOrchardを結ぶ路線で、この区間は常に混雑しています。日本の観光客が利用する機会も多いでしょう。なお、Raffles Placeの隣にMarina Bayという駅がありますが、ここはマリーナベイサンズの最寄り駅ではなく、環状線に乗り換えて隣のBayfrontに行く必要があります。
東西線(East West Line)
東西線はその名の通りシンガポール島内を東西に横断する路線です。島の東部にあるチャンギ空港にも乗り入れていて、観光客が利用する頻度も高いでしょう。ただし、空港へ行く路線は本線から分岐する支線扱いとなっていて、途中のTanah Merahで乗り換えが必須です。一方、西側は主に工業地帯となっており、朝夕は通勤客の輸送がメインとなっています。
面白いのは南北線と接続するCity Hall、Raffles Placeの各駅です。ホームが赤坂見附駅のような二層構造になっていて、各路線の乗り換えが同一ホーム上でできるようになっています。しかも、City Hall駅では南北線の北行きと東西線の西行きが接するのに対し、 Raffles Place駅では南北線の北行きと東西線の東行きが接する形となっていて、どの方向に乗り継いでも同一ホームで乗り換えできるよう工夫されています。
もっとも、後からできた路線とは必ずしも接続はよくなく、通路を長々と歩かされる駅も多いです。
北東線(North East Line)
北東線は2003年に開業した比較的新しい路線である。編成は上記2路線と同じ6両ですが、車両はフランス・アルストム製だそうで、車内のカラーリングは独自のものになっています。
北東線は他の路線とは運営主体が異なるらしく、車体には「SMRT」のロゴではなく「SBS Transit」のロゴが入っています。SBS Transitは北東線の他にダウンタウン線も運営していますが、運賃体系はSMRTと共通で、東京メトロと都営地下鉄のような関係とはまた異なるようです。
本路線の北の方は主に住宅地で、沿線住民用のトラムと連絡しています(乗ったことはないので詳細不明)。一方、南の方では複数の観光地を結ぶほか、終点のHarbour Front駅ではシンガポール随一の観光地であるセントーサ島行きのモノレールと接続していて、観光で利用する頻度は高いでしょう。
環状線(Circle Line)
環状線は2009年以降に順次開業した、シンガポールで4番目の路線です。環状線という名前ながら一部未開業の区間もあり、環状ルートの一部分が欠けた状態となっているほか、 Dhoby Ghaut~Promenade間の枝線が存在します。
ただし、運行形態上はDhoby Ghaut~Promenade(~HarbourFront)間が本線、 未完成の環状ルートの一部であるMarina Bay~Promenade間が支線という形になっています。
観光客がこの路線を利用する頻度が一番高いのは、本線よりもMarina Bay~Bayfront~Promenade間の支線の方でしょう。Marina Bayで南北線と接続しており、オーチャード・ロードなどの旧市街からマリーナベイサンズ方面へ行く際の主要ルートだからです。
また、本線のEsplanade駅は地下通路を通じて南北線や東西線のCity Hall駅とつながっているので、乗り換えに利用することが可能です。
ダウンタウン線(Downtown Line)
ダウンタウン線は2013年末に最初の区間が開業しました。2013年にシンガポールを訪問した際はまだ路線ができておらず、Bayfront駅は環状線のみが完成していて、ダウンタウン線のホーム予定地は囲いで覆われていたのを覚えています。今ではBayfront駅のホームも完成し、環状線と同一ホーム乗り換えができるようになっています。
この路線は市中心部をまっすぐ突っ切る他の路線と異なり、「α」の字を描くように中心部をぐるっと大回りして通過します。ただし、路線が交差する部分には駅はなく、例えばLittle IndiaからChina Townへ行こうとすると沿岸部を大回りするため時間がかかってしまいます。また、南北線とは接続駅がないなど、後発路線にしては乗り換えが不便なので注意が必要です。
トムソン東海岸線(Thomson-East Coast Line)
トムソン東海岸線という長い名前の本路線は、2020年以降に順次開業した最新路線です。「トムソン」はシンガポール中央部の地区名で、路線が増えすぎて路線名がネタ切れしたためか、ついに固有名詞を使うことにしたようです(これまでの路線は固有名詞を含まず)。
Orchardを通ってはいるものの、他に観光客に縁のありそうな駅は少なく、利用する機会はあまりなさそうです。Maxwell駅はチャイナタウンに近いため、ここからOrchardに出るときに使う可能性があるぐらいでしょうか。筆者はまさにこのルートでたまたま乗車できました。
2024年6月には東へ延伸し、これまで鉄道のなかったカトン地区を通るようになるため、今後は観光で乗車する人も増えるかもしれません。
記事は次ページに続きます。
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