韓国の高速列車・KTXとSRTを乗り比べ~運賃・本数・ターミナル駅の違いは?

開業20周年を迎えた韓国の高速鉄道・KTXと、「第2の高速鉄道」として2016年に開業したSRTを乗り比べてきました。

前の記事

運行系統が複雑な韓国高速鉄道

韓国の高速鉄道といえば、KORAILが運営するKTXがもっとも有名です。日本の新幹線は最初から最後まで専用線を走る(ミニ新幹線を除く)のに対し、KTXの線路幅が在来線と同じであることを生かし、ソウルや大邱といった大都市周辺では一般列車と線路を共有することで建設費削減に貢献しています。

また、高速新線と在来線の乗り入れも頻繁に行われ、多くの列車が末端部では在来線を走るほか、ソウルから大田までは在来線、大田からは高速新線を走るといった変わり種の列車も少数存在します。

加えて、ソウル市内の水西という駅を起点に天安牙山の手前まで専用線を走るSRTという列車もあります(天安牙山からはKTXに乗り入れ)。SRTを運営するSRはKORAILの子会社ですが、価格競争を実現するためにわざわざ分社化しているようです。実際、SRTの方が運賃が安く、人気があるようです。

今回、KTXとSRTが合流する天安牙山までを往復し、両社の乗り心地を観察してみることにしました。

朝の永登浦駅を観察

朝6時過ぎ、通勤ラッシュが始まる前の永登浦駅にやってきました。前日は夜遅かったので気づきませんでしたが、永登浦の電鉄線ホームは5つもあるようです。線路は方向別複々線になっていて、1・2番線はソウル駅から地下鉄に直通する電車、3・4番線は龍山~東仁川間の急行、5番線は「光明シャトル」という永登浦~光明間の電車(詳しくは後述)に割り当てられているようです。

ホームはやや年季が入っていて東京のJR駅を思わせますが、真新しいフルスクリーン式のドアが異彩を放っています。広告看板やディスプレイがドア周辺に所狭しと並んでいる様子はシンガポールMRTに似ています。

電車を待っていると、隣のホームにはソウルメトロ所有の赤い帯の電車がやってきました。KORAILの車両は青系統の帯をまとっているので違いが目立ちます。ソウルメトロには鋼製の古めかしい電車もまだ残っていて、途中どこかですれ違ったのを覚えています。

ソウル駅に到着し、乗り換え通路を通って長距離列車乗り場へ向かいます。通路の途中には、大きな荷物を運ぶためのベルトコンベアがありました。こうやって乗客が自由に使える形で設置されているのは珍しいです。

KTX乗車前、駅入り口付近の売店で海苔巻き(キンパ)を購入しました。値段は5000ウォンほどで、売店の奥の方ではおばちゃんがせっせと海苔を巻いている姿が見えました。どうやら作り置きではなく、その場で製造しているようです。ごま油をまぶした韓国海苔の中に、酢飯とツナ、ニンジンなどの野菜が巻かれています。KTX車内で朝食として食べましたが、味はほぼ想像通りで特に意外性などはありませんでした。

KTX特室の乗り心地は?

ソウル6:57→天安牙山7:37 KTX(009列車)

ソウル駅からはいよいよKTXに乗り、およそ100kmほど離れた天安牙山まで行きます。乗車券は出発前にアプリで予約しておきました。初のKTXということで、奮発して特室(日本でいうグリーン車)に乗ってみます。とはいっても特室の運賃は19700ウォン、一般室は14100ウォンなのでそこまで高くはありません。

これから乗る列車は5番線発
隣の7・8番ホーム入り口

発車標には既に乗ろうとする列車が表示されていたので、ホームに向かいます。ホーム手前のエスカレータの上にも列車時刻が書かれているので、乗り間違えないよう確認しておきましょう。

今回乗車したのは初代KTXの100000系で、特室は18両編成の2~4号車にあります。日本の新幹線だとグリーン車は編成の真ん中に配置されていますが、KTXは随分偏った位置にあり、ホームをえっちらおっちらと歩きます。入り口部分のドアは一般室は青緑、特室はピンク色と色分けされているのでわかりやすいです。

先頭の機関車の側面には、「開業20周年」のロゴが張り付けられていました。

こちらが特室の車内です。暖色系の照明で落ち着いた雰囲気です。見ての通りシートは1列+2列の配置ですが、KTXの車体幅は日本の新幹線ほど広くなく在来線並みなので、シートの幅やシートピッチも1列+2列配置の在来線特急(683系とか)と同等と思っておけばよさそうです。初代KTXの一般室は座席の向きが固定で、半数の座席が逆向きとなってしまいますが、特室の方は座席転換できます。

一つ気になるのが、シートと窓割が全然合っていない点でしょうか。しかも、コンセントが窓と窓の間の柱の部分に設置されているため、運が悪いとコンセントを使うことができません。車両が登場した20年前は一人1台スマホを持つ時代など想像できなかったので、これで良しとされたのでしょうか。ちなみに筆者の席は眺望は当たりでしたが、コンセントはありませんでした。

座席が7割がた埋まったところでソウルを発車します。乗客はやはりビジネスマンや熟年層が多いです。

ソウルを発車してしばらくすると、東海道新幹線のパーサーのようなシュッとした女性車掌が車内を巡回します(これはこの後乗ったSRTも同様でした)。ところで、KTXの特室ではドリンクとお菓子の配布があると聞いていたのですが、2024年時点では配布はありませんでした。デッキの所に写真のような機械があり、ここからセルフサービスでペットボトルをもらえます。お菓子も、デッキ付近のカウンターに置かれているとのこと(こちらは全く気づきませんでした…)。

ソウル駅を出た列車は、まずは昨日乗ったムグンファ号と同じ線路を進んでいきます。龍山を出ると漢江を渡りますが、この鉄橋を渡るのももう5度目になります。永登浦、九老を過ぎてしばらく進むと、在来線から分かれてトンネルに入ります。ここからいよいよ高速新線に入りますが、あまり速度は上げずに光明という駅に停車します。

光明は掘割の中にありホームが4面ある広い駅で、ヨーロッパの駅のごとく駅全体に大屋根が掛かっています。高速新線の駅ではありますが、線路幅が共通であることを生かして電鉄線も乗り入れてきます。この電車は「光明シャトル」と呼ばれていて、永登浦~光明間を1時間に1本ほど走っています。日本でいえば、品川~西大井~武蔵小杉~新横浜という経路のシャトル列車が走っているようなものでしょうか。

光明を出るといよいよ高速列車の本領を発揮し、時速200キロを超える速度で走行します。揺れや騒音は日本の新幹線とそう変わらず、乗り心地は良好です。窓の外は田んぼが目立ちますが、1号線沿いは開発が進んでいるようで、高層マンションが林立する姿も遠くの方に見えました。

天安の手前の平沢(駅はない)付近でSRTと合流するのですが、その手前で高架の鉄道路線と交差しました。こんなところに鉄道はないはずなのですが、調べると2024年10月に開業予定の平沢線という新線だったようです。この他、ソウルの西側を南北に走る西海線という路線もこのあたりまで延びてくるようで、韓国の新線建設のペースはすさまじいものがあります。

SRTと合流してしばらくすると速度を落とし、天安牙山駅に到着です。列車は程なく発車していきましたが、やはり機関車によるプッシュプル方式のため日本の新幹線のように加速は鋭くなく、のっそりとした走り出しでした。

天安牙山駅ってどんな場所?

天安牙山駅は天安と牙山という2つの市の境にある駅で、燕三条駅のごとく両方の市の名前をとっています。てっきり何もないような駅かと思いきや、駅前には高層のビルやマンションが林立していてびっくり。KTXやSRTを使えばソウル市内までは近く、住宅地として人気があるのでしょうか。駅自体もホーム4線に通過線を備えた巨大な高架駅で、どことなく仙台駅にも似ています。

駅の西側には在来線である長項線の駅もあって、1号線も乗り入れています。こちらはKTXと駅名が異なり、「牙山駅」と呼ばれているようです。

ところで、ソウル駅でKTXの乗客を観察していたところ、コーヒーのカップを片手に持っている客がやたらと目立ちました。しかもまだ涼しい時期なのにホットコーヒーではなく、申し合わせたように大きなアイスコーヒーを抱えています。

何でも、韓国ではアイスアメリカーノというエスプレッソを氷水で割ったものが大流行しており、真冬でもこれを飲む人が多いとのこと。スタバなどのコーヒーショップでは必ずといっていいほどメニューのトップに書かれていました。

駅の高架下のコーヒーショップが営業していたので、郷に入れば郷に従えとばかりに購入してみました。カウンターにシロップはありましたがクリームはなく、シロップのみを入れるのが流儀のようです。味はアイスコーヒーと麦茶の中間のような感じでした。

KTXのライバル・SRTで水西へ戻る

天安牙山8:05→水西8:41 SRT(306列車)

天安牙山から水西まで、SRTで戻ります。SRTはKTXよりやや運賃が安いようで、水西まで11200ウォンでした。しかも、車両はKTX-山川と同型のため客車8両と短く(一部、2編成併結の列車もあり)、キャパが小さいため満席になりやすいようです。筆者もソウル到着日夕方の列車を10日前に予約しようとしたらことごとく満席で、SRT乗車を一日遅らせざるを得ませんでした。

しかも、KTXのダイヤの隙間に列車を走らせているためか、本数も偏っています。10時台に水西に着く列車は4本もある一方、筆者の乗った列車の後は1時間近く間隔が空いていたりします。

そんなSRTですが、やはり人気は高いようで列車はほぼ満席でした。今回は一般室に乗車しましたが、乗客は若者や女性が多い気がしました。シートの方は見ての通り日本の特急列車とほぼ変わりません。ひじ掛けの所に車内オーディオらしき装置が付いていますが、イヤホンを持っていなかったため動作は検証できませんでした。

天安牙山を出発した列車はしばらくするとKTXと分かれ、平沢芝制という駅を通過します(ここは1号線の駅もあるらしい)。列車は程なくトンネルに入りますが、このトンネルは終点の水西までは延々と続きます。その長さは実に約57kmにもなり青函トンネルを超えます。この後GTX-Aでやってくる予定の東灘駅に停車しつつ、地下トンネルを延々と走行します。

車内設備は特筆するものはあまりありませんが、デッキの自販機には各種ドリンクやお菓子、ケーブル類がぎっしりと並んでいました。車内販売はないようですが、自販機で色々買えるのはいいですね。日本の新幹線は車内販売廃止で今や水すら買えないので、この点はうらやましいです。

地下トンネルを走り続け、終点の水西に到着しました。特に変哲のない地下駅ですが、2016年にできたばかりということでまだトンネルは新しいです。

ホームの先端には、SRTの起点駅であることを示したモニュメントがホームに置かれていました。手前の石積みはSRT車両の形を模しているのでしょうか。

水西は路線図上ではソウル駅から遠く離れていて不便なところかと思っていましたが、よくよく考えると江南や蚕室方面へは近いので、このあたりに用がある人にとってはKTXよりも便利といえそうです。地下鉄3号線の駅には地下道で直結していて、ほとんどの客が乗り換えていきました。

この後は、時速170kmで疾走する謎の地下鉄・GTX-Aに乗車します。

次の記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました