鉄印帳ブームを15年先取り
2020年、「第三セクター鉄道等協議会」に加盟する鉄道会社が共同で「鉄印帳」という取り組みを始めました。寺社仏閣の朱印帳よろしく、第三セクター各線の指定駅で朱印の発行を受けてコンプリートを目指すというもので、鉄道ファンの間でちょっとしたブームになっているようです。ついには、こんな番組までできているようで。
「私たち鉄印帳はじめます。」
https://www.bs11.jp/education/tetsuincho/
このように脚光を浴びている第三セクター線ですが、日の目を浴びる15年も前に、筆者は既に全線乗車を達成しておりました。今回は第三セクター線の魅力についてご紹介したいと思います。
なぜ「第三セクター線」? ~ 国鉄時代への追憶
筆者は2005年元日にJRの全路線を一旦完乗し(当時災害で運休中だった越美北線を除く)、その前後の1年ほどは乗りつぶしのための旅行から遠ざかっていました。しかし、鉄道そのものに対する興味が無くなった訳ではなく、しばらくするとまたどこかに出かけたくなってきました。
しかし、どこかに行くためには「目的」が必要であり、乗りに行くターゲットとなる路線を選ぶ必要がありました。まず、JR完乗の際十分に車窓を堪能できなかった路線を再訪したいと思いました。行程の都合上、どうしても夜間に通過せざるを得なかった路線や、夜行明けに乗車するなどして車内で居眠りしてしまい車窓を見逃した路線が全国に点在していたのです。本来は車窓を楽しむために鉄道旅行をしているのであり、そんな路線が存在すること自体本末転倒も甚だしいのですが、当時はただひたすら完乗を目指していたので仕方ありません。
加えて、今まで乗車してこなかった私鉄にも乗ってみたいと思いました。私鉄にも風光明媚な路線、面白い路線は数多くあります。JRの次は私鉄の乗りつぶしをしてみるというは自然な流れですし、実際そういう人は数多いはずです。ただ、私鉄にはあまり興味を引かれない路線も数多いのも事実です。例えば東京や大阪の近郊には私鉄路線が網のように路線を張り巡らせていますが、何の変哲も無い住宅街を走る都市近郊の通勤線や、トンネルの中を延々と走る地下鉄を全部乗りつぶしたいか?と考えると当時の私はあまり食指が動きませんでした。
といいつつ、数年後には大手私鉄や地下鉄を含めた乗りつぶしを完遂してしまいましたが。
そこで、乗りつぶしの対象路線を、私鉄の中でも旧国鉄・JRの廃止路線を継承した鉄道に限定することにしました。 鉄道ファンの間で一般に「第三セクター線」と呼ばれる路線です。
「第三セクター線」に対象を限定した理由は2つありました。1つは、JRの路線並みの旅情があること。旧国鉄の路線を継承している以上これは当然といえます。
もうひとつの理由は、国鉄時代に国鉄全線を完乗した人々の苦労をしのびたいというものです。私がJRを完乗した2005年1月当時のJR路線の総キロ数は19861kmですが、 国鉄時代の1980年3月時点では総キロ数は20809.7kmもありました。(宮脇俊三著「時刻表20000km」による)しかも、この時点では東北・上越新幹線や石勝線・埼京線・京葉線といった路線は開通していません。これらの路線の営業キロは合わせて約1000kmに及び、差し引きすると総計2000km程のローカル線が1980年代の国鉄改革の課程で廃止されたことになります。
このように、国鉄の不採算路線が数多く廃止され、その一部が「第三セクター線」となりました。このとき廃止された路線はいずれも本数の少ないローカル線であり、しかも宮脇氏が国鉄完乗を目指した頃はまだ東北・上越新幹線のような便利な路線が未開通でした。よって当時の国鉄完乗は、今のJR線完乗よりもはるかに大変だったことが想像できます。第三セクターに移行せず廃止となった路線にはもう乗れませんが、第三セクター線として生き残った路線に乗ることにより、当時の苦労を部分的にではあるものの味わえるはずです。
そもそも「第三セクター線」って何? ~ 実は都会の通勤線も
以上の経緯で第三セクター線の乗りつぶし思い立った訳ですが、まずは「第三セクター線」の定義を決めておく必要があります。そもそも、「第三セクター」の一般的な定義は、「国や地方公共団体と民間が合同で出資・経営する企業」です。この定義を鉄道の世界に当てはめると、「国や地方公共団体と民間が合同で出資・経営する鉄道」ということになります。 この定義に当てはまる旅客鉄道会社としては、以下のものが存在しています。
- 旧国鉄の廃止線を引き継いだもの(例:いすみ鉄道、真岡鉄道など多数)
- 鉄建公団の建設線を引き継いだもの(例:北越急行、智頭急行、井原鉄道、三陸鉄道や土佐くろしお鉄道の一部など)
- JR化後の新幹線開業に伴い、並行在来線を移管したもの(例:IGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道、しなの鉄道、のと鉄道、肥薩おれんじ鉄道など)
- 私鉄の廃止線を引き継いだもの(例:えちぜん鉄道、万葉線など)
- 自治体の資金を投入して作られた都市近郊新線(例:埼玉高速鉄道、東葉高速鉄道、みなとみらい線など多数)
先程、「第三セクター線=旧国鉄・JRの廃止路線」と説明しましたが、ずいぶん違うものも混じっています。このように、一口に第三セクター線といっても解釈次第によって対象路線が大幅に変動するため、 自分がどの路線を乗車対象とするかを決めておく必要がありました。
上記の5種類の路線のうち、最も会社数が多いのは 5. です。しかし、そもそも第三セクター乗りつぶしを始めた理由は、「JR線を完乗した今、今度は元国鉄の路線の完乗を果たし、 かつて国鉄時代に全線完乗を果たした人の苦労を偲ぶ」というものです。 従って、旅情も何も無い 5. はもちろん、4. も完乗対象から外しました。一方、国鉄がもう少し長く続いていたら 2. の路線も国鉄の路線として間違いなく開業していたはずなので、対象に加えることにしました。というわけで、1. ~3. を「三セク線」と定義としました。
なお、微妙なのがJR富山港線を継承した富山ライトレールです。富山ライトレールは、旧富山港線の区間と、新たに建設した路面電車区間が入り混じった路線で、全線が路面電車サイズの車両で運転されています。すなわち、継承後の輸送形態がLRTという国鉄・JRとは似ても似つかぬものであること、また継承後に開業した区間は国鉄・JRの構想によるものではないことから、「三セク線」の対象から外しました。(実際には乗車済み)
同じく微妙なのが平成筑豊鉄道の九州鉄道記念館~関門海峡めかり間で、門司港駅周辺を走る観光用のトロッコ路線です。これも一部国鉄の貨物線を継承しているようですが、富山ライトレールと同様の理由で外しました。
対象路線一覧
2022年時点で、上記 1. ~3. の定義に当てはまる「三セク線」の一覧は以下の通りです。概ね全路線が鉄印帳の対象になっていますが、唯一青い森鉄道は対象外になっているようです。これは同社が「第三セクター鉄道等協議会」に加盟していないことが理由のようです。
鉄印帳収集の際は、ついでに三セク線の完乗も目指してみてはいかがでしょうか。
会社名 | 区間 | 完乗日時 | 備考 |
---|---|---|---|
道南いさりび鉄道 | 五稜郭~木古内 | 1999/1/15 | JR時代に完乗 |
青い森鉄道 | 目時~青森 | 2000/2/24 | JR時代に完乗 |
IGRいわて銀河鉄道 | 盛岡~目時 | 2000/2/24 | JR時代に完乗 |
秋田内陸縦貫鉄道 | 鷹巣~角館 | 2006/4/29 | |
由利高原鉄道 | 羽後本庄~矢島 | 2006/4/28 | |
三陸鉄道 | 盛~久慈 | 2002/8/8 | 釜石~宮古間はJR時代に乗車 |
山形鉄道 | 赤湯~荒砥 | 2006/10/29 | |
阿武隈急行 | 槻木~福島 | 2006/10/29 | |
会津鉄道 | 西若松~会津高原 | 2006/8/6 | |
野岩鉄道 | 新藤原~会津高原 | 2006/8/6 | |
わたらせ渓谷鐵道 | 桐生~間藤 | 2006/12/22 | |
真岡鐵道 | 下館~茂木 | 2006/12/22 | |
鹿島臨海鉄道 | 水戸~鹿島サッカースタジアム | 2006/10/9 | |
いすみ鉄道 | 大原~上総中野 | 2004/6/23 | |
北越急行 | 犀潟~六日町 | 2002/10/5 | |
えちごトキめき鉄道 | 妙高高原~直江津、市振~直江津 | 2001/10/8 | JR時代に完乗 |
しなの鉄道 | 軽井沢~篠ノ井、長野~妙高高原 | 2001/6/30 | JR時代に完乗 |
あいの風とやま鉄道 | 倶利伽羅~市振 | 2001/10/7 | JR時代に完乗 |
IRいしかわ鉄道 | 金沢~倶利伽羅 | 1994/12 | JR時代に完乗 |
天竜浜名湖鉄道 | 掛川~新所原 | 2004/8/12 | |
樽見鉄道 | 大垣~樽見 | 2004/8/12 | |
明知鉄道 | 恵那~明智 | 2005/8/17 | |
長良川鉄道 | 美濃太田~北濃 | 2006/10/14 | |
愛知環状鉄道 | 岡崎~高蔵寺 | 2004/8/12 | |
伊勢鉄道 | 河原田~津 | 2005/8/18 | |
のと鉄道 | 和倉温泉~穴水 | 1994/12 | |
京都丹後鉄道 | 西舞鶴~豊岡、福知山~宮津 | 2006/8/10 | |
信楽高原鐵道 | 貴生川~信楽 | 2006/10/14 | |
北条鉄道 | 粟生~北条町 | 2005/8/12 | |
若桜鉄道 | 郡家~若桜 | 2006/8/10 | |
智頭急行 | 上郡~智頭 | 2003/12/30 | |
井原鉄道 | 清音~神辺 | 2006/8/11 | |
錦川鉄道 | 川西~錦町 | 2006/8/13 | |
阿佐海岸鉄道 | 阿波海南~甲浦 | 2003/4/28 | 阿波海南~海部間はJR時代に乗車 |
土佐くろしお鉄道 | 窪川~宿毛、後免~奈半利 | 2006/8/11 | |
平成筑豊鉄道 | 直方~行橋、金田~田川後藤寺 | 2004/8/18 | |
甘木鉄道 | 基山~甘木 | 2004/8/18 | |
松浦鉄道 | 有田~佐世保 | 2004/8/19 | |
南阿蘇鉄道 | 立野~高森 | 2004/8/20 | |
くま川鉄道 | 人吉~湯前 | 2004/8/20 | |
肥薩おれんじ鉄道 | 八代~川内 | 2003/3/11 | JR時代に完乗 |
※本記事は以下のページの内容を再編集したものです。
https://rail20000.jpn.org/nori/nori3d.html
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