「電車」と「列車」、何が違うの?日本の鉄道における定義とは?~実はそのルーツに違いあり

「電車」と「列車」の違いって~JR東日本もあやふや?

山手線を走る「電車」
宇都宮線を走る「列車」

テレビの旅番組などで、鉄道に詳しくない出演者が気動車や客車のことを「電車」と呼んでいるのを見て思わず「電車じゃなくて列車でしょ」と突っ込みたくなる…鉄道ファンならば誰もが経験したことがあると思います。鉄道ファンから言わせれば、「電車=電気モーターで動く車両」「列車=鉄道車両全般」なのですが、この定義を正しく理解している世の中の人は必ずしも多くないようです。

ちなみに東京や大阪などの都市部だと、「鉄道=電車」というのが世の中の多くの人の認識ですが、地方都市では必ずしもそうではないようです。路面電車が走っている地方都市の場合、市内を走る路面電車を「電車」と呼び、JRを(電車、気動車関係なく)「汽車」と呼ぶこともあるようです。

では、「電車」「列車」という用語を、鉄道会社自体はどう使い分けているのでしょうか? 例えばJR東日本の駅構内の自動放送をよくよく聞いてみると、

今後、○番線に参ります電車は、〇時〇分発、各駅停車 大船行きです。

と流れる路線と、

今後、○番線に参ります列車は、〇時〇分発、普通 熱海行きです。

と流れる路線があります。前者は山手線、京浜東北線など、かつて「国電」「E電」と呼ばれ、4ドアの通勤型車両で運行されてきた路線が該当します。一方、後者は東海道線、宇都宮線など、3ドアの中距離電車で運行されてきた路線(最近はE231系など4ドアの車両に置き換わってしまいましたが)が当てはまります。もっとも、横須賀線は長年3ドアの113系で運行されていましたが「電車」と呼ばれており、その境界は実はあやふやだったりします。

「電車」と「列車」のルーツは「路面電車」と「蒸気機関車」にあり

広島電鉄に残る、元大阪市電(路面電車)の車両
大正時代に製造が始まった8620形蒸気機関車


ところで、JR・私鉄を含む鉄道路線は大きく分けて2つの異なる法律に準拠しています。一つは鉄道事業法、もう一つは軌道法と呼ばれるものです。鉄道事業法が一般的な「鉄道」を対象としているのに対し、軌道法は主に路面電車を対象とする法律ですが、一部の地下鉄や新交通システム(道路用地内に軌道が敷かれているもの)も軌道法に準拠しています。また、建設時は軌道法に準拠していたものの、後年鉄道事業法に移行した路線(阪急や京阪の一部路線)もあります。

実はこの「軌道」というものが電車のルーツと言えます。電車の起源は馬車軌道といって、主に都市部の短距離移動に用いられた馬が牽引する乗り物に遡ることができます。自動車もバスもない時代、市内交通は馬車が主役だったのです。文明が進歩すると共に、さすがに馬だと輸送力に限界がある上、馬糞の処理も問題だということで馬車は路面電車へと姿を変えていきました。そのため、初期の電車は単行、すなわち1両編成が原則でした。

一方、列車の方の起源は、新橋-横浜間に誕生した蒸気機関車牽引の鉄道に遡ることができます。主に都市間の貨客の移動に用いられ、今のJRの路線のほとんどがこちらを起源としています。最初は全て蒸気機関車が牽引していたのですが、技術の進歩と共に牽引する機関車が電気機関車、あるいはディーゼル機関車へと姿を変えて今も続いています。

加えて、頻繁に停車・発車を繰り返す旅客列車においては高い加速度を得られる電車の方が有利だということで、次第に電車の技術を取り入れるようになっていきました。日本では機関車が何両もの客車を牽引するというスタイルの客車は今ではすっかり勢力を狭め、JR・私鉄を問わず電化路線では電車が幅を利かせるようになり、「電車」と「列車」の境界は非常にあやふやとなっています。

その他、「インターアーバン」といって、当初から都市間の高速移動に電車を用いるという考え方に基づいて作られた路線もあって、昭和期に作られた私鉄路線(近鉄大阪線や小田急線、現在の阪和線など)が当てはまります。これは電車と列車の相の子といえる存在です。

「電車」と「列車」、消えないDNA

箱根登山鉄道の一部区間は、1067mmと1435mm両方の軌間に対応している(箱根湯本駅にて撮影)

以上の前提知識に基づき、日本の主な私鉄路線を見てみると、その発祥が電車であるものと列車であるものに大別できることが分かります。その際、一番分かりやすいのは軌間(軌道間隔)です。京阪、阪神、阪急、京王、京急など、その発祥が路面電車であるものは、路面電車に多く見られる1435mm、もしくは1372mmを採用しています。ちなみにこの1435mmという軌間は、古代ローマの馬車の車輪の間隔にまで遡ることができるそうです。

一方、南海、東武など、もともと蒸気機関車が客車を牽いていた鉄道の場合、JRの在来線と同じ1067mmを採用しています。やはり、線路の上を走る車両は変わっても、線路の間隔を替えるのはなかなか難しいため、軌間にはその路線のDNAが色濃く残るようです。

※この記事は過去のブログを再編集しました。
http://rail20000.sblo.jp/article/54286035.html

コメント

タイトルとURLをコピーしました