立山黒部アルペンルートに挑む

 これまでの一連の旅行で、公共交通機関の通っている主要な観光地はほぼ行き行きつくしたと自負しているが、 それどもまだ「大物」がいくつか残っている。その一つが、長野県と富山県に跨る立山黒部アルペンルートである。 途中、黒部ダムや「雪の大谷」で知られる室堂などの観光地があり、 ケーブルカーやトロリーバスなど多彩な交通機関を乗り継いで踏破する。 「交通ファン」を自任する者なら真っ先に訪れておくべき場所だが、営業期間が年の半分余りしかなく、 私の定義する「鉄道路線」に含まれる路線がないこともあり、ずっと訪問できずにいた。
 5月の連休の狭間の平日、1日暇ができたので意を決してアルペンルートを踏破しに出かけた。 「意を決して」と書いたのは、4月から5月のアルペンルートは「雪の大谷」の雪の壁が最も高い時期であり、 その分観光客も集中し、交通機関に乗るのに1時間、2時間待たされることもざらにあるからだ。 下手をすると、乗車券の発売が制限される可能性もあるという。 もし大混雑に巻き込まれ、富山からの最終の新幹線に乗れなかったらどうしようかと危惧しながらも、 後先顧みず行ってみた。

目次

2017/5/2

■ 八王子9:39発〜松本11:56着 あずさ9号

■ 松本12:11発〜信濃大町13:05着

 八王子から「あずさ9号」に乗る。そういえば、2年前に小海線に乗りに行った時もこの列車だった。 連休の狭間とあってか車内はそれほど混んでおらず、窓側の席が軽く埋まる状態で八王子を発車。 この日は天気も良く、いつもの通り南アルプスや八ヶ岳の山々を眺めつつ松本に到着。
 松本から大糸線に乗る。実に8年ぶりの乗車である。大糸線の信濃大町までは元々、信濃鉄道という私鉄路線であり、 地方路線にしては駅の数が多い。乗客は2連のE127系で丁度よいぐらいの数で、 主要駅である穂高で一気に空いた。その次の有明からは車掌がいなくなり、ワンマン運転となる。 JRの路線で、途中からワンマン運転になるのは珍しい。 背後に槍ヶ岳、穂高岳といった山々がそびえる安曇野をのんびりと北上し、小一時間ほどで信濃大町に到着。


久々の乗車となる大糸線のE127系。

■ 信濃大町13:15発〜扇沢13:55着 アルピコ交通

 信濃大町はアルペンルートの長野側の玄関口である。まずはここから路線バスで、立山連峰のふもとの扇沢に向かう。 バスは観光タイプで、乗客は十数人ほど。時間が遅いからか、あるいは観光バスやクルマで扇沢に向かう客が多いからなのか、 まずは静かなスタートだ。
 バスはしばらく市街地を走り、数件の温泉ホテルがある大町温泉郷を過ぎると本格的な山道となる。 しばらく走ると、残雪が目立つようになってきた。途中には野生のサルの親子もいた。 13時45分ごろ、扇沢に到着。時刻表よりもずいぶん早く着いた。 早速窓口で電鉄富山までの乗車券を買う。値段は9000円を超え、カードが使えるのがありがたい。 きっぷの有効期間は5日らしいが、私は数時間で通り抜けるつもりだ。

■ 扇沢14:00発〜黒部ダム14:16着 関電トンネルトロリーバス

 扇沢からはトロリーバスに乗り換え、黒部ダムに向かう。やはり扇沢に直接来る客が多く、 乗り場は結構人が多い。だが、この日はバスが5台続行しており、全員着席してもお釣りがくるほどだったようだ。
 14時ちょうど、扇沢を発車。床下からはまるで電車のようなVVVFインバータ音がする。 車内放送によるとこのバスは平成5年製らしい。 信号機や速度制限の標識も鉄道そっくりで、妙な感覚である。 鉄道でいうところのポイントを渡る際は大きく減速する(車上のトロリーポールの関係か?)のも鉄道に似ている。 かつて日本の至る所で見られたというトロリーバスも、いまやアルペンルートの2路線を残すのみになった。 しかし、これも環境保護のため排ガスを出さないようにしたいというやむにやまれる事情のために残っているにすぎず、 近い将来、電気自動車の技術が進めば取って代わられるのかもしれない。
 バスはトンネルの中をひたすら進み、中間で反対方向のバスと行き違う。こちらは満員で、 通路までぎっしりと人が立っている。また、途中には工事の際大量の湧水に苦労したという破砕帯の部分が青いランプで照らされていた。 その部分の壁からは水がしたたり落ち、非常に不気味だ。
 真っ暗なトンネル進むこと15分あまりで、ようやく黒部ダム駅に着く。 余談だが、アルペンルートを構成する各種の乗り物のうち、このトロリーバスだけは関西電力の持ち物である。 作られた目的も他とは異なり、黒部ダムや発電所の建設用である(他は観光用に作られた)。 今でも観光だけでなく各種工事のために使われており、 黒部ダム駅からトンネルや専用鉄道を通じて黒部峡谷鉄道の欅平駅までつながっている。
 トロリーバスを降り、地下通路を抜けて黒部ケーブルカーの黒部湖駅に急ぐ。 黒部ダムは言うまでもなくアルペンルート最大の見どころで、 本来ならダムを見下ろす展望台に行ったり、ダム湖を周遊する遊覧船に乗ったり、 ダム建設の資料館を見たりといろいろするべきことがあるのだが、 黒部ダムの堰堤の上からダム湖を眺め、写真を撮ったぐらいで、あっけなく通り過ぎてしまった。


今や貴重なトロリーバス。上方にケーブルが見える。

■ 黒部湖14:40発〜黒部平14:45着 黒部ケーブルカー

■ 黒部平15:00発〜大観峰15:07着 立山ロープウェイ

■ 大観峰15:15発〜室堂15:25着 立山トンネルトロリーバス

 地下にある黒部湖駅に向かう。混んでいるのかと思いきや、誰もいない。 どうやら直前の便が出てしまった直後のようだ。戻ってもう少し観光しようかとも思ったが、 客が殺到して積み残されたら困ると思い、そのまま待つことにした。
 待つこと15分ほどで、ようやく改札が始まる。結局、それほど客は集まらず、ほぼ全員が座れる程度の混雑にしかならなかった。 日本で唯一、全線地下を走るケーブルカーに乗り、5分で黒部平に着く。 次に乗るのは立山ロープウェイだ。この乗り物がアルペンルートの中で最もキャパが小さく、輸送のボトルネックになるらしい。 そのため、ここでも発車の15分前から改札の前に並ぶ。ロープウェイの出口からは、次々と外国人のツアー客が出てくる。 どうやら時刻表にない便を出しているようだ。アルペンルートでは一般客と団体客を結構厳密に分けているらしく、 団体客用の臨時便には一般客は乗せないようにしているし、混雑時に配られる整理券も一般客と団体客では異なるようだ。
 結局、ろくに外にも出られないままロープウェイに乗り込む。 やはり搬器が小さいため、車内は首都圏のラッシュのような満員状態となる。 それでも窓際に陣取り、景色を眺める。眼下には先程通った黒部湖がはるか下に見える。 また、真下の雪原にはシュプールの跡がいくつも見えた。このあたりはスキーヤーが結構出入りしているようだ。 黒部平から7分で大観峰に到着。
 大観峰は黒部の険しい山々の絶壁のようなところにあり、ちょっとした売店以外は周囲に何もない。 地下に降りると本日2本目となるトロリーバスの乗り場があるので、乗り込む。 バスは3台も出ており、空いていた。車両は先程のものとほぼ同じのようだ。 トンネルの途中に待避所と、破砕帯を示す青いランプがあるのも同じだ。 10分ほど乗ると、アルペンルート最高地点の室堂に着く。


暗闇の中を走るケーブルカー。


ケーブルカーからは立山の山々と黒部湖が見える。


この日2本目のトロリーバスに乗る。

■ 室堂15:30発〜美女平16:20着 立山高原バス

 室堂駅は、「雪の大谷」の最寄り駅であり、観光客でごった返していた。 そんな中、バス乗り場に向かうと行列ができている。しかし、それほど長くはなく、 10分ほど待っただけで乗れた。繁忙期はバスに乗るだけで相当待たされるということなので、ほっとした。 また、ここでこの後乗るケーブルカーの整理券をもらった。
 満員のバスで室堂を発車すると、さっそく「雪の大谷」が目に入ってくる。雪壁の高さは20m近くあるだろうか。 壁には掘り下げた跡が刻まれ、地層のようになっている。 道路は1車線が歩行者専用となり、雪壁を見ようとする観光客でごった返している。
 しばらくバスから雪壁を見た後、バスはくねくねと道路を下っていく。 すれ違うのは同じ型のバスばかりである。美女平から上はマイカー規制が行われていて、 路線バスしか入ってこられないため、渋滞とは無縁だ。
 標高が下がるにつれ雪壁はなくなっていくが、相変わらず周囲は雪で埋もれている。 沿道の木の枝は特徴的で、木の上の方は上向き、下の方は下向きとなっている。 下の方は冬季、雪の圧力に押されるため、こうなってしまうらしい。 途中、太さ2mはあろうかという杉の巨木や、高さ350mの称名滝が見える滝見台を過ぎ、美女平に到着。


これが雪の大谷。自動車と比べるといかに壁が高いかがわかる。

■ 美女平〜立山 立山ケーブルカー

 美女平の駅舎には外国人観光客など多数の人が待っていて、座る場所もないほどだ。 とりあえず改札に行ってみると、10番の整理番号を持っている人を呼び出していた。 手持ちの整理券は22番で、どれほど待たされるのだろうと思ったが、 一回に2〜3個ぐらいは番号が進んでいるようだ。 ケーブルカーは10分おきぐらいに出ている。放送では40〜50分待ちといっていたが、大体それくらい待てば乗れそうだ。
 駅の外の大きな石に座って、松本で買って以来食べる機会を逃していた弁当を食べる。 山の上なのでやや肌寒い。森の中には残雪も残っている。 それでも時間が余ったので、2階に上がって屋上に出てみる。その途中、いくつか机と椅子が置いてあるスペースがあり、 それほど利用者もいなかったので、ここで弁当を食べればよかったと思ったが、後の祭りである。
 結局40分ほど待って、ようやくケーブルカーに乗れた。ラッシュ時のような混雑であまり外は見えなかったが、 途中、トンネルの区間が結構長かった。

■ 立山17:24発〜電鉄富山18:28着 富山地方鉄道

■ 富山19:37発〜東京21:56着 かがやき516号

 ケーブルカーの立山駅は鉄道駅と同じ駅舎の中にある。とりあえず乗り場に急ぐと、長蛇の列ができている。 電鉄富山まで1時間以上かかるし、座れるだろうかと不安になる。 しばらく待つと改札が始まる。転換クロスシートの元京阪特急3000系あたりが来てくれるといいのだが、 と思いながらホームに降りると、愕然とした。そこに止まっていたのは、 東急東横線や大井町線を走っていた8090系という電車だった。前来たときはこんなの居なかったぞ、と思う。 純通勤電車で、当然ながら車内はロングシートだ。かろうじて座れたものの、 こんなところで通勤電車に詰め込まれるとは思わなかった。立ち客も結構出た。
 立山を発車した電車は、常願寺川の渓流に沿って下っていく。情緒ある車窓だが、 元東急の通勤電車から眺めると何とも言えないものがある。 こんな観客の多い時間帯にわざわざ通勤電車をよこすなんて、と一時は憤慨したが、 すれ違うクロスシート車を観察すると、実はこちらと座席数は同じか、むしろこちらの方が多いのだ。 あちらの方が車体が2mほど短く、しかもワンマン対応のため運転台後ろの座席が撤去されているのが原因のようだ。
 渓谷沿いの区間が終わると、岩峅寺という駅に着く。ここからは南富山を経由して電鉄富山に向かう上滝線が出ている。 あちらは始発なので確実に座れ、電鉄富山には数分の違いで着くということで、立っていた地元客が何人か乗り換えていった。 が、事情を知らない観光客は立っていても誰も移動しない。もうちょっと案内を工夫できないものかと思う。
 岩峅寺からは田園と住宅の入りまずる区間を走る。電鉄富山に近づくとちょっとした帰宅ラッシュになる。 これくらい混むと、やはりロングシート車の定員の多さが生きる。18時28分、信濃大町から5時間余りで電鉄富山に到着。 時間があるので、駅構内の店で土産物をゆっくり選んだ後、満員の「かがやき」で東京に戻った。


思わぬところで元東急8090系と再会。