日本は鉄道ファン大国であり、一説には国内だけで2万人もの鉄道ファンがいるともいわれる。
一口に鉄道ファンといっても、鉄道車両に関心を持ちモーターやら台車やらの研究をする者、
鉄道写真を撮影するために下手をすると泊まりがけで出かける者、
休みがあると何日も鉄道旅行に出かけ駅寝や車中泊も辞さないという者、JRの社員よりも運賃制度に詳しい者、
鉄道部品や模型の収集に大金をつぎ込む者、過去何十年分もの時刻表を欠かさず集める者など、
その生態は様々である。
もちろん私はそんなディープなファンではなく、休日になるとたまに列車に乗りに行くぐらいである。
JR完乗を目指していた頃は無茶な旅をしたものだが、
最近は体力も衰えてしまって、すっかりライトな鉄道ファンに成り下がってしまった。
そんなやる気のない鉄道ファンだけに、鉄道車両への思い入れというのも他のファンに比べてあまりない。
「ナントカと畳は新しい方が・・・」などという言葉ではないが、
鉄道車両も新しくて綺麗であればまあいいんじゃないの、ぐらいにしか考えていない。
よく、103系とか113系といった古い国鉄型通勤車両が大好きで・・・なんていう鉄道ファンがいるが、
その気持ちが全く理解できないでいる。ただのボロいクルマじゃないか、と。
そんな私だが、唯一思い入れがあるのがかつての地元・阪急電鉄の6300系である。
6300系は阪急京都線の特急型車両として開発された。
阪急の他の車両が3つドアロングシート(8000系の一部車両と、最近登場した9300系を除く)である中、
6300系は2つドアオールクロスシートという他とは一線を隔した車体構造で、
優等列車らしい風格を備えた車両だ。
京都線の特急は今でこそ停車駅が増えて冴えない運転を強いられているが、
90年代半ばまでは大阪・京都間ノンストップ運転をしており、6300系がその専用車として運用されていた。
個人的な話だが、幼少の頃、まだ電車で遠出をすることが珍しいかった私にとって、
親に連れられて京都の親戚宅を訪問することは、ほぼ唯一の「旅行」であり、
その時乗車した6300系京都線特急は一際輝いて見えたものだ。
そんな6300系だが、先述した特急の停車駅増加に伴い、
2ドアクロスシートという車体構造ではスムーズな乗降に支障をきたすようになってきたこと、
そして特急専用車として昼夜問わず、休日でさえもフルに運用されてきたことによる車体の老朽化の激しさ等の理由により、
3ドアクロスシート車である9300系に特急専用車の座を譲り、引退することとなった。
もっとも、一部の車両は改造の上嵐山線に異動するというし、
比較的後年になって追加増備された車両はもしかするとまだ残るかもしれないので、
すぐに消えてなくなるということはなさそうではある。
しかし、一部の車両は既に解体されたというし、本線走行する様子を簡単に見られる日はそう長く続かないと思われる。
そこで、せめて車内外の様子を写真に残しておこうと思い、2009年の正月に帰省した際、撮影に行った。
(余談だが、休日の午前中に出かけたところ6300系が最低4本運用に入っているのを確認した。)
ここでは、写真とともに6300系を紹介したいと思う。
なお、このページの写真については大きいサイズの画像を用意しました。 写真をクリックするとポップアップします。
梅田駅に進入する6300系特急。すれ違うように5300系準急が出て行く。
後継車である9300系と肩を並べる。製造時期は30年程違うが、 最新の車両と比べても古さを感じさせない。
先頭部の字幕部分を拡大。屋根のラインにアイボリーの帯を纏う塗装はかつて6300系のみに施され、 特急型車両としてのアイデンティティーであったが、後に他の車両にも広がった。 また、前照灯から貫通路にかけてのラインに銀色の帯を貼り付けるデザインも6300系が元祖だが、 後に登場した8000系以降の車両に取り入れられた。
尾灯部分にはシルバーの帯が取り付けられ、6300系の特徴となっている。 このデザインは今でも6300系固有のもの。
帯を横から見た写真。帯は側面に回りこんで斜めにカットされ、 スピード感を表現している。乗務員扉は阪急の他の車両と共通のものが使用されている。
運転台の直前には、明り取りの小窓が設置されている。 この窓は後年に取り付けられたもので、当初はこの窓はなくHankyuの「H」をあしらったシンボルマークが貼り付けられていた。 代わりに、現在は小窓の後ろの戸袋部に新CIが貼り付けられている。
車体側面の写真。座席2つ分を連窓としているのが最大の特徴だ。 この連窓は、先代の特急車両である2800系から取り入れられた。 余談だが、ライバルである国鉄の117系にも採用されている。
車体番号の拡大写真。番号の上の部分がやや間延びしているが、 これは番号の上部にかつて旧社章が貼り付けられていた名残である。
車両のサイドビュー。ドアは車両の両端に寄せられ、ドア間に連窓が7つ並ぶ。 なお、比較的近年になって号車番号がドア横に貼り付けられた。 おそらく女性専用車導入の頃に貼り付けられたと思われる。
一番京都寄りの8号車には、公衆電話が設置されている。 その部分の車外には電話マークのステッカーが張られている。 なお、写真の右側には車両間連結部の幌が写っているが、他の車両とは違い高さは2m近くある。
6300系の座席。阪急の他の車両と違い、モケットはストライプの入ったものとなっており、 6300系の大きな特徴となっている。 日本人の体格向上に伴い、今では座席幅がやや狭い気もするが、椅子のスプリングはよく効いており、 座り心地は非常に良い。
こちらは、他の車両よりやや遅れて増備された6330編成の座席。
見てのとおり、座席の肘掛けの外側にもモケットが張られている。他の車両はこの部分は化粧板となっている。
6330編成は、かつて高槻市・茨木市の高架化工事により特急が一時的にスピードダウンし、
6300系の運用が一つ増えたことから増備された。足回りが当時の最新車両である7300系に準じたものとなっている他、
車内の内装にも他の車両と細かい差異がある。
肘掛けには、写真のようにモケットが張られている。 製造当時はこの部分には白いレザーが張られていた。
座席の窓側にも、肘掛けが設置されている。こちらもモケット張りとなっている。
座席の下にあるポールのようなものは、足置きである。 2人掛けの状態の時は、写真のようにポールが下がっている。
前の座席を転換し、ボックスシートのような状態にすると、 足置きが邪魔にならないようポールが跳ね上がる仕組みになっている。 細かい心配りに感心させられる。
座席の枕の部分には、網状の模様のビニールが巻かれている。 かつては、肘掛けと同じく真っ白なレザーが巻かれていた。
窓の下部には取っ手がある。これを引き上げると日よけの鎧戸が現れる。 鎧戸は阪急以外の他社の車両ではまず見かけないが、阪急(と、一部のグループ鉄道)ではつい最近の車両までは標準的な装備で、 一般型車両でもごく普通に見られる。
鎧戸を引き上げた状態。鎧戸は重くて引き上げるのが大変であり、子供が手をはさむ恐れもあることから、 車両更新の際などに撤去され徐々にカーテンに置き換えられている。
運転台直後の座席。編成のうちここだけはロングシートとなっている。
ドア両脇には、写真のような補助椅子が設置されている。 なお、中央の椅子マークの中にはランプが仕込まれており、 ラッシュ時など補助椅子をロックし使用不可とする時間帯には赤い×印が表示される。 この機構は6330編成のみに装備されている。
補助椅子を開いた状態。補助椅子とはいえ座布団は結構分厚く、座り心地は案外良い。
6330編成以外の車両の補助椅子。「混雑時の使用はご遠慮ください」との注意書きは、 以前は銀色のプレートに書かれていたと思うのだが、いつの間にかステッカーに変わった。
6330編成では、写真のように貫通路のドア窓が縦長のタイプとなっている。 他の編成は、窓の大きさがおよそ半分のタイプである。
車内に設置された公衆電話。この電話が設置された当時は携帯電話はおろか自動車電話すらまだ普及していなかった時代で、 列車に電話が設置されること自体稀だった。子供の頃一度使ってみたのだが、 テレホンカードがどんどん減っていくので慌てて電話を切った記憶がある。
ドア横の広告。一般型車両より、枠が少し豪華である。 非常ドアコックのケースも化粧板仕上げになっていて、一般型車両と異なる形状だ。
車両天井部分の写真。一般型車両と違い、吊り広告は一社のものに統一されている。 ドア付近のつり革は、混雑対策として以前に比べて増設されている。 なお、蛍光灯にはカバーが付けられているが、これは一般型車両と共通のものである。
こちらは6330編成の天井。他の車両とは、空調の吹き出し口の形状が形状が異なっている。
車両妻面に取り付けられている車両番号。製造当時から取り替えられていないようで、年季が入っている。 6300系車両は製造時から化粧板の交換は行われておらず、やや黒ずんでいる。
反対側の妻面には銘板と検査日が取り付けられている。 阪急では、写真のように全般検査・重要部検査を行った時期を車内に表示する。
6300系の運転台。同時期の車両と特に大きな違いはない。 スピードメーターがデジタル式に取り替えられている。
車両の床は写真のように小石の模様になっている。これは6300系が唯一の存在で、 阪急の他の車両は茶色一色となっている(未更新の場合)。
撮影当日は年始ということもあり、京都方面に初詣に行く人で座席は既にかなり埋まっている。 京都まで40分あまり、小さな旅の始まりだ。
梅田駅の一番端にある1号線で発車を待つ。このホームが一番似合うのは、やはり6300系だと思う。
行楽客を乗せ、はるばる京都河原町に向けて住み慣れたホームを発車。行ってらっしゃい!