最終更新日:2021/5/5

3セクと駅弁で巡る東北・北海道:二日目―秋田内陸縦貫鉄道と釜石線、山田線

目次

2006/4/29

大館6:30発〜鷹ノ巣6:44着

 翌朝、始発の秋田行き快速列車に乗るべく早朝の大館駅へ行く。 駅前には忠犬ハチ公の像が立っていた。渋谷に建っているあのハチ公の像である。 待合室に立っていると、開店準備中の売店に有名な「鶏めし」の駅弁が届けられた。 早速購入すると、できたてなのでまだ暖かい。
 列車は3両編成だった。今はがらがらだが、秋田に着く頃にはきっと混むのだろう。 大館を出ると、途中の小駅を軽快に通過しながら走る。 速度はローカル線にしてはなかなか速い。米代川沿いの荒地や田畑の入り混じった土地を走る。
 鷹ノ巣ではわずか2分の連絡で角館行きに乗り換える。乗り換え時間が少ないのが心配だったが、 ここの接続はちゃんと取ってくれるだろうし、大丈夫だろうと思っていた。 事実、他にも乗り換え客がいてちゃんと間に合った。


大館駅舎は2階建ての大ぶりなもの。


駅前には渋谷のものとよく似た「ハチ公」の銅像が。


今日一本目の列車は701系の秋田行き。

鷹ノ巣6:46発〜角館9:22着 秋田内陸縦貫鉄道

 秋田内陸縦貫鉄道の角館行きは、時間が時間だけあってがらがらだった。 車体は鮮やかなレモンイエローに塗られ、3セク線にしては垢抜けている。
 鷹巣をでるとすぐ、西鷹巣に着く。この辺の駅間の短さは3セク線らしい。 列車は田畑と森の入り混じる地帯を走る。しばらくすると阿仁川が寄り添ってくる。 途中、何度か列車と行き違う。どの列車も派手なカラーで、 上杉では紫、阿仁前田ではオレンジの車両とすれ違った。 米内沢から阿仁川の谷が深くなる。雪解け水だろうか、 澄んだ水が川幅いっぱいに流れている。
 やがて列車は阿仁合の駅に着く。阿仁川の谷にある静かな集落だ。 列車はここで10分停車する。時間があるので駅構内を観察してみる。 駅舎は2階建ての建物に、大きな三角形の構造物が付いた独特な形状のものだった。 この駅には車両が何台も留置してある。急行「もりよし」に使われる流線型の車両も見えた。
 阿仁合を出ると谷が狭まってきた。このあたりまで来ると、 日のあたらない場所には残雪が目立つ。標高が高いためだろう。 途中、「笑内」という駅がある。「おかしない」と正確に読むのは難しく、難読駅の一つだ。
 比立内でまた交換がある。ここまでが国鉄時代に造られた区間で、 ここから先は国鉄時代に鉄建公団AB線として建設がストップし、 3セクに転換されてようやく建設再開された区間だ。 そのため、造りも立派になり高架が多くなる。トンネルの合間に奥阿仁の駅がある。 川が流れているぐらいであとは何も無いような駅だ。 が、ここから男性が一人乗車して来た。山にでも登っていたのだろうか。 トンネルを出ると、阿仁マタギに着く。狩猟で生活するマタギにちなんだ駅名だ。 確かにこれぐらいの山奥なら色々狩れそうだなという気がする。
 やがて、長い長い十二段トンネルに入る。 トンネルを出ると、戸沢に着く。駅前の畑には残雪が積もり真っ白だ。
 再び川に沿って走り、松葉に着く。ここから先は国鉄時代に開通していた区間となる。
 八津駅の手前で列車は徐行を始めた。放送によると、 このあたりはカタクリの群生地で、ちょうど今が身頃のため徐行するとの事。さっそく見てみると、 線路際の斜面に小さな紫色の花が点々と咲いている。 が、花はまばらにしか咲いておらず、カタクリ自体も雑草みたいな植物であることから単なる荒地に 雑草が生えているようにしか見えない。もう少しすれば一面が紫色になったりするのだろうか。 だが、このカタクリ群生地はちょっとした観光名所らしく、 路上駐車している車やハイカーの姿が見えた。
 9時21分、角館に到着。武家屋敷のある町ということで、駅舎も昔風だ。 桜のシーズンとあって、駅前には観光客の姿が目立つ。せっかくだから武家屋敷を見たいところだが、 駅からは結構遠く、20分の乗り換え時間で往復するのは 不可能そうだった。


秋田内陸鉄道の車両は、全面が黄色、オレンジ、紫など一色で塗られている。


雪解け水で水量が増しているであろう阿仁川に沿って進む。


大きな三角形の構造物が特徴の阿仁合駅。


有料急行「もりよし」で使われるクロスシート車。


次の主要駅である比立内の駅舎はいたって普通のもの。


まだ後ろに雪が残る戸沢駅。


しばらく走ると平地の雪はなくなるが、後ろの山々はまだ真っ白。


これが「名所」とされるカタクリの群生地。よく見ると紫色の花が見える。

角館9:42発〜雫石10:24着 こまち10号

 盛岡からはこまち号に乗る。こまち号は全席指定席が原則だが、 盛岡〜秋田間は東北新幹線区間と違って他に特急列車が無いため、 特定特急券と呼ばれる券が発売されている。この券を買うと空席に座ることができ、 実質自由席券の代わりとなる。この制度、地元以外では案外知られていない。
 特定特急券を手に列車に乗り込むと、窓際の席が空いていた。 先程乗った秋田内陸縦貫鉄道と別れ、しばらく走ると田沢湖に着く。 田沢湖から先は、幅数mの渓流が流れるだけの無人地帯を進む。 昨日乗った奥羽本線の板谷峠や、仙山線の山越え区間に似た景色だ。 前回この区間を通ったときは秋で、紅葉が見事だった。今回は新緑が綺麗で、 残雪も見られる。こうやって難所をゆっくりと走っていると、 新幹線に乗っている気がしない。今はこれでも、盛岡から先は270km/hで爆走するのだから、妙な話だと思う。
 行き違いのための信号所を過ぎると、長い仙岩トンネルに入る。 トンネルを抜けるとまた信号所があり、その先はまた渓流をうねうねと下る。 難所を抜け、雫石に到着。この先盛岡まで乗っていても良いが、 特急料金を節約するため雫石で下車する。雫石と盛岡の間で角館からの距離が50kmを超えるのだ。


ぎりぎり50kmに満たない距離だけ「こまち」に乗車。

雫石10:29発〜盛岡10:45着

 陸橋を渡り、 隣のホームに停車中の701系普通列車に乗る。標準軌仕様の車両で、701系一族にしては珍しく 一部の座席がクロスシートになっている。雫石始発の列車だが、 車内には盛岡に向かう人がそこそこいた。途中駅でも人を集め、盛岡着。
 盛岡駅は構内が改装され、階段の位置などが大きく変わっていた。 勝手の分からないまましばらく構内をウロウロした。在来線ホームに向かう階段を降りかけると、 下にいる車掌さんに「乗るの?」と呼ばれてしまった。 ちょうど本数の少ない山田線の列車が発車しようとするところだったようだ。 盛岡では駅弁を仕入れようとしていたのだが、在来線の構内には売っていないようだ。 しかも手持ちの乗車券は角館から花巻までなので100kmに満たず、途中下車できない。 盛岡で乗車券を分割しておけばよかったなどと後悔していると、 新幹線改札の中に駅弁売り場を発見した。改札口にいる駅員さんに頼むと、 中に入って駅弁を買ってきて良いとのことだったので、ご厚意に甘えて購入させていただく。


標準軌の田沢湖線仕様の701系。

盛岡11:22発〜釜石13:35着 はまゆり3号

 盛岡からは釜石行きの快速に乗る。車両は元秋田リレー号のキハ110×4連で、 自由席も車内は特急並みのリクライニングシートとなっている。 ゴールデンウィークではあるものの、2連の自由席は空いていた。
 盛岡を発車すると、東北本線を無停車で一気に南下し、花巻に到着。 花巻からは方向転換し、いよいよ釜石線に入る。列車は田畑の間を進み、 北上川を渡ると新花巻に着く。新幹線の高架の下にちょこんとホームがある。 そんなちっぽけな駅ではあるが、ここから乗ってくる乗客の数は多く、車内はにぎやかになった。
 新花巻を出ると、線路は主に猿ヶ石川という川に沿って 進んでいく。同じ岩手山地越えをする山田線はずっと人気のない山中を進むのに対し、 こちらの釜石線は長閑な山村を進んでいく。 沿線人口もこちらのほうが多いのだろう。列車の本数も釜石線のほうが圧倒的に多い。
 駅弁を食べながら、長閑な車窓を見ているとあっという間に遠野に着いた。 遠野は沿線最大の都市である上、河童伝説や遠野物語の影響で観光地化が進んでいる影響もあるのか、降りる客が結構多い。 半分近い客を降ろして発車する。しばらくまた農村風景の中を走った後、 長いトンネルに入る。ここから線路は複雑なルートで北上山地の難所を越えていく。 まず、トンネルで北上川の水系から陸前高田の方へ流れる川の水系に出る。 ここにあるのが上有住駅で、駅の近くに洞窟があるそうだが 快速列車はあっさりと通過する。さらにトンネルを抜け、今度は釜石湾へ注ぐ水系に出る。 トンネルを抜けると、はるか下の方に線路が見える。 これはこの後走る線路で、列車はΩ型のカーブを描いて高度を下げていく。
 トンネルを抜け、陸中大橋駅を通過すると、 今度は山の上のほうにこれまで走ってきた線路が見える。 スイッチバック路線などではこのような光景を良く見かけるが、 一本の線路でつながっている路線でこのような線形というのはやや珍しい。 列車は川沿いに一気に下り、やがて赤茶けた巨大な人工物が見えてきた。 釜石の象徴である、釜石製鉄所の高炉だ。ここ釜石で宮古行きの列車に慌しく乗り換える。


盛岡から東北本線を走るのは通常なら写真の701系だが、今回はこれには乗らず。


急行時代から変わらぬ4連で運転される快速「はまゆり」。


上有住付近で線路は急勾配を駆け降りる。はるか下の方にこれから進む線路が見える。

釜石13:40発〜宮古14:53着

 今度の列車は単行のキハ100であった。5分の接続ですぐに発車する。 列車はいきなり山へと分け入っていく。太平洋岸の線区ながら、険しいリアス式海岸だけあって線形は複雑だ。 トンネルを抜け、両石で海沿いに出たかと思いきや、 再び山を掻き分けて大槌でまた海沿いへ、また山を越えて浪板海岸で海沿いへと、 とにかくめまぐるしい。
 やがて列車は山田線の名称の由来となった陸中山田に到着。 途中駅で客を降ろし、発車時点では満席だった車内も大分落ち着いてきた。 ここまでは断続的ながら太平洋を望むことができたが、陸中山田からは全く海が見えなくなった。 山中をさまようかの如く進み、津軽石で久しぶりに海が見えると、 間もなく宮古に着いた。
 宮古では1時間ほど時間がある。特にすることもないので、 駅近くにある市場を見に行ってみるが、3時ということもあってもう店じまい状態だった。 仕方ないので、駅前の本屋に入るなど無為に時間を潰さざるを得なかった。


険しいリアス式海岸沿いの車窓には時折、太平洋が見える。

宮古15:49発〜盛岡18:00着

 宮古駅に戻ると、駅版を買って改札を通る。 ホームにはキハ52単行の盛岡行きがホームに停車していた。 宮古駅の構内には今や貴重となったキハ52やキハ58が何両か留置されているが、 大分経年劣化が進んでいるようで傷みが目立つ。 車内は各ボックスが埋まる程度の混雑だ。地元の人が多いが、鉄道マニアの姿も目立つ。
 宮古を出発し、三陸鉄道の線路とすぐに分かれる。最初の停車駅の千徳で2人ほど乗ってきた以外、 乗客の乗り降りはあまりない。列車は閉伊川の流れに沿って淡々と進む。 やがて、岩泉線との分岐駅である茂市に着く。以前山田線に乗ったときは、 岩泉線を往復し、夜になってしまった後に茂市より先の区間に乗った。 そのため茂市から先は事実上初乗りである。
 茂市を出ると、いよいよ人の気配が見当たらなくなる。 茂市までの区間は曲がりなりにも田畑や家が車窓に見えたが、 今や川と無人の国道しか見えない。腹帯という妙な名前の駅を過ぎ、陸中川井に着く。 ここ陸中川井は川井村の中心で、駅前にはバスの姿もある。 久しぶりに文明に接したようで何だかほっとする。
 相変わらず無人地帯を彷徨い、川内に着く。 周囲に人気の少ない駅だが、驚いたことに駅員がいる。 ここは交換駅であるため、その要員として配置されているのだろう。 最近は合理化が進み、交換駅であっても無人もしくは委託駅というケースがほとんどであるので、 貴重な光景だ。逆に言えば、それだけ山田線が近代化から取り残されているともいえる。 赤い旗を持った駅員に見送られ、川内を発車した。
 地形はますます険しくなり、渓谷沿いに敷かれた急カーブかつ急勾配な線路をそろそろと進んでいく。 時折見える国道では、乗用車やトラックがこちらを上回る速度でびゅんびゅん飛ばしている。 もともと山田線は、沿線人口は少ないながらも盛岡と宮古を結ぶ都市間連絡の使命があったが、 この線路状態とダイヤではとてもその役目を果たせているとは思えない。何とか生きながらえているという状態だ。 軌道強化をして振り子式の特急でも走らせれば並行するバスと勝負できそうな気もしなくもないが、 そんな話は今のところないようだ。
 やがて列車は、沿線最高地点の区界峠に差し掛かる。いつしか周りの木々は針葉樹に変わり、 周囲には牧場や牧草地が広がる。一足速く北海道に来たような錯覚を覚える。 やがて区界の駅に着き、列車交換を行う。ここにも駅員がいて、発車する列車を見送っている。 区界を出るとトンネルで一気に標高を下げる。しばらくすると、 秘境駅として有名な浅岸や大志田を通過する。当然ながら誰も乗り降りしない。 夕刻になり日も翳ってきた。無人のホームが何だか不気味だ。
 さらに急勾配を転がるように下っていき、山岸へ。このあたりでようやく盛岡に市街に差し掛かったのだろう、 久々に家並みが見えてきた。18時ちょうどに、盛岡着。


懐かしい国鉄型のキハ52。宮古にて。


「盛岡行」のサボも非常にレトロ。


側線には同じく国鉄型のキハ58も停車中。


キハ58の側面はボロボロ。。


列車は国道と並行しつつ閉伊川沿いを上っていく。


陸中川井駅には国鉄時代の駅名標が健在。駅前にはバスも待ち構える。


無人の山間部に突如現れた川内駅。


川内と同じく交換業務のため駅員がホームにいる区界駅。

盛岡18:26発〜八戸18:55着 はやて25号

 今日ここまでは東北地方を彷徨うような普通列車の旅が続いたが、 盛岡からは一転して特急で北を目指す。まずは「はやて」で北を目指す。 先程の「こまち」同様特定特急券での乗車となる。先程も利用した売店で今日4個目(!)の駅弁を買い、適当な空席に座る。 八戸まではわずか30分。しかしその間に、トンネルの合間に見える空がずいぶん暗くなった。

八戸19:02発〜函館21:54着 スーパー白鳥25号

 八戸に着き、在来線乗り場へと急ぐ。停車しているのは789系「スーパー白鳥」、 JR北海道の特急電車としては始めて八戸まで乗り入れを果たした車両だ。津軽海峡の地図が乗客を出迎えてくれる。 チケットホルダーなど、車内の造作にJR北海道らしさが感じられ、早くも北海道に来たような気分になる。
 もはや日も暮れて何も見えないが、八戸を発車した789系は快調に北上していく。 やがて列車は青森に着き、方向転換する。経験上、ここから空いてくると思っていたのだが、 自由席に乗ってくる客は意外に多く、車内の客はむしろ増えたのがやや意外だった。 海産物の入った白い発泡スチロールのケースを持った客が多く、車内がやや生臭くなった。
 単線の津軽線を抜けると、いつしか青函トンネルに入っていた。 トンネルを抜け、いよいよ北海道へ上陸した。 この区間に乗車するといつも思うのだが、木古内から先の江差線の区間が意外に長く感じる。 やや疲れてきたところでようやく函館に着いた。

 函館に来るのは3年ぶりだが、駅舎が新しくなっていて驚いた。 ホームレスが居座っていたあの古びた旧駅舎と比べると雲泥の差だ。 ホテルにチェックインすると、明日の朝五稜郭に行く時のバスの時刻をチェックしに再度駅前に行く。 さすがに北海道は涼しく、本州向けの薄着ではやや肌寒い。 ここで体を冷やしてしまったせいか、この夜風邪を引いてしまった 。寒気がし、のどが痛くなって目が覚めた。風邪薬を飲んで再度寝たが、 この先が追いやられる。


夜の八戸駅に停車する789系。


青函トンネルを通り抜けていよいよ北海道に上陸。


「HEAT」の愛称を持つ789系。


帆船や汽車、歴史上の人物(?)などを描いたタイルが埋め込まれた函館駅の通路。