最終更新日:2020/11/8

九州、D&S列車の旅:一日目―ゆふいんの森、あそぼーい!と有明海の夕日

 近年、全国の鉄道で個人の旅行客をターゲットにした観光列車が次々と登場している。 その先駆けとなったのがJR九州で、今では9種類もの観光列車(JR九州は「D&S列車」と呼称)が走っている。
 これまで、JR九州の観光列車には何度も乗車してきたが、今回は2日間をかけて5つの観光列車に乗車してみることにした。 本当は全部に乗ってみたかったのだが、 観光列車の中にはいわゆる「盲腸線」を走るものもあり、これを2日という短期間で乗車するのは難しく、やむを得なかった。
 今回乗車した路線はいずれも既に複数回乗車した経験があるが、いずれも絶景を誇る路線であり、 飽きるどころかむしろ楽しみである。

目次

2014/5/1

羽田空港6:35発〜福岡空港8:20着 ANA239便

福岡空港〜博多 福岡市交通局

 朝一番の飛行機と地下鉄を乗り継ぎ、まだ通勤客の行き交う博多駅へとやってきた。 博多駅の駅ビルは九州新幹線開業に合わせて建て替えられたばかりだが、その横では早くも別の新しいビルを建築中であった。
 ここから、まずは「ゆふいんの森」に乗るのだが、その前に駅コンコースの駅弁売り場に向かう。 ここでは九州各地から集められた選りすぐりの駅弁が売られており、その種類は20を超えていただろうか。 さんざん迷いながら、何とか2つの駅弁を選び出し、購入する。実はこの後列車の中でも弁当を買うかもしれないのだが、 あいにく今後の行程で博多による機会はないため、思い切って2個も買ってしまった。


地下鉄では、たった3本しかないJR九州の303系を目撃。


新駅ビル完成で見違えるような姿となった博多駅から鉄道旅をスタート。

博多9:24発〜由布院11:34着 ゆふいんの森1号

 駅弁を抱えてホームに上がり、まずはなかなか見る機会のないJR九州の車両を眺める。 特急型、近郊型どちらも個性的な車両ばかりで、見ているだけでも楽しい。 ひとしきり観察したところで、これから乗る列車を迎える。ホームには団体を含む多くの観光客が待っていた。 程なくやってきた列車をひとしきり撮影し、列車に乗り込むと、車内は予想外に混んでいた。車内放送によると今日は満席だという。 3日前に指定席券を買ったときはかなり空いていたので、これは想定外だった。どうも台湾からの団体客が大挙して乗り込んでいるらしい。 向こうの国でも「ゆふいんの森」の人気は高いのだろうか。
 博多を発車した列車は、しばらく鹿児島本線をややゆっくり進む。二日市を過ぎたあたりで、車内を見学に行く。 まずはデッキだが、この車両はハイデッカー構造となっているのが特徴で、ドアを入ってすぐの所に階段がある。 座席周りは木目調の内装なのに対し、デッキは金属むき出しの内装となっているのが特徴だ。 隣の車両に行くと、ビュッフェがある。ビュッフェは久留米を出たくらいから営業するんだよな、と思っていると、すでに営業を開始していた。 そこで、ゆふいんの森車内限定の駅弁と、由布院サイダーというのを買う。 ビュッフェの前にはハガキ大の乗車記念証というのがあるので、貰っていく。これは表が列車のイラスト、裏がスタンプ台紙となっているもので、 この後乗った他のリゾート列車にも同じようなものが置かれていた。
 列車は久留米から久大本線に入り、筑後川沿いの平野を進んでいく。しばらくすると平野が狭まり、川っぷちを進むようになる。 夜明で日田彦山線と合流し、やがて日田に着く。ここでの下車はあまりなく、みな由布院を目指すようだ。
 この列車は単なる物見遊山のための列車ではなく、久大本線の速達列車という側面もあるためか、この後の列車のように客室乗務員が頻繁に回ってくる、 ということはなかった。それどころか、「慈恩の滝」という紙を掲げにやってきたのは初老の車掌さんだった。客室乗務員の数が不足しているせいだろうか。 その慈恩の滝を過ぎ、相変わらず廃墟のような豊後森の機関庫を見ると、由布院まであと少しだ。 前回乗ったときは曇って見えなかった由布岳がはっきり見えるようになると、程なく由布院に到着する。


福北ゆたか線の817系。片方の車両は汚れがひどく、別形式のように見えてしまっている。


「かもめ」などに使われる883系は、車両中央に荷物置き場があり、その部分だけ窓がないのが特徴。


博多駅に入線する「ゆふいんの森1号」。球体のような先頭部は何回見てもユニークだ。


「ゆふいんの森1号」の車両は、入り口を入ってすぐに階段がある独特の構造。


由布院駅で多くの観光客を吐き出す「ゆふいんの森」。

由布院11:44発〜大分12:42着

 久々にやってきた由布院駅は駅舎がすっかり新しくなり、豪華寝台列車「ななつ星」専用の待合室ができるなど、 すっかり様変わりしていた。ここからは普通列車に乗り換え、大分を目指す。「ゆふいんの森」の客の大半は由布院で下車するようで、 普通列車に乗り継ぐ客はほとんどいない。2両編成の気動車はがらがらで由布院を発車する。
 列車は由布岳を脇に見ながら、山の中を進んでいく。途中の駅での乗降はほとんどなく、のんびり雰囲気が流れる。 途中、今乗っているのと同じキハ200とすれ違ったが、乗車している車両は昔からあるオール転換クロスシート車両なのに対し、 あちらは最近投入された車両で、半数の車両がロングシートだった。JR九州の最近の車両は、 バスのような大きな行先表示器が印象的。
 途中の向之原あたりからは沿線に住宅が増え、乗車してくる客も増えてきた。やがて、終点の大分に到着。

大分13:02発〜豊後竹田14:25着

豊後竹田14:27発〜宮地15:09着

 大分駅に降り立つのは6年ぶりだが、しばらく来ないうちに駅が高架化されてすっかり様子が変わっていた。 しばらく駅の中をぶらついた後、ホームに戻る。すると、駅の中が何やら騒がしい。日豊本線内で人身事故があり、 「ソニック」が遅延しているらしい。今日は北九州空港から九州入りし、「ソニック」で大分に向かうプランも考えていたため、 そちらを選ばなくて本当に良かったと思った。
 大分からは豊肥本線の普通列車で阿蘇を目指す。車両はまたもオールクロスシートのキハ200だった。 絶景で知られる豊肥本線だが、大分口は割と普通のローカル線の車窓が続く。 がらがらの車内で、大分で購入した駅弁を食べるなどしてのんびり過ごす。
 やがて、終点の豊後竹田に到着、ここで宮地行きの列車に乗り換える。 この列車はキハ200の単行で、車内はロングシートであった。そこで、運転台の直後に立ち、車窓を眺めることにする。 車内の客はわずか5人ほど。途中駅で降りた客を除けば、あとは皆趣味者のように見受けられた。
 豊後竹田を発車した列車は、阿蘇の外輪山を越えるべく、30パーミルを越える急勾配を延々と上り続けていく。 SLの時代は大変な難所だっただろうが、新性能の気動車は急坂を難なく進んでいく。 途中、所々擁壁や路盤が新しい箇所がある。2012年にこのあたりで大規模な水害があり、今乗車している区間は1年ほど不通になる被害を受けた。 その際に修復を行った跡である。やがて、列車は外輪山を長いトンネルで越える。このトンネルも例の水害で被害を受け、 流れ込んだ濁流で線路が押し出されてしまった。押し出された線路が出口付近でとぐろを巻いていた光景は新聞でも大きく取り上げられた。
 トンネルに入ると、それまでとは一転して下り勾配となり、走りも軽快になる。 トンネルを出てすぐの所で、阿蘇のカルデラ盆地が一望できる。トンネルの合間から一瞬見えるだけだが、見逃せない絶景だ。 あとは坂を転がるように下り、終点の宮地に到着する。
 宮地駅では少し時間があるので、駅舎で休憩する。駅舎の一角は例の水害の記念館となっており、 ぐにゃぐにゃに曲がった線路の一部が展示されていた。


豊後竹田〜宮地間は閑散区間のため、普通列車は単行である。


宮地駅は駅看板や入り口にあるしめ縄がまるで神社のよう。

宮地15:40発〜熊本17:13着 あそぼーい!

 やがて、これから乗る特急「あそぼーい!」が入線してきた。使用されているキハ183は、 幾多の改造を経て「オランダ村特急」「ゆふいんの森」といった観光列車として利用された後、 今はこの「あそぼーい!」に落ち着いている。改造前を含め、この車両に乗るのは今回が初めてだ。
 席に座る前に、車両をいろいろ観察してみる。まず外観は、黒い犬のイラストがいくつも貼られている。 車内は基本的に化粧板や座席のカバーを張り替えただけのようだが、3号車は内装が一新されていて、 目玉となる「白いくろちゃんシート」が設置されている。これは親子連れで座ることを想定したシートで、 子供が窓際に座れるよう回転式のシートではなく、あえて転換クロスシートにしたというエピソードがNHKの某番組で紹介されていた。 この車両には他にも、売店や子供向けの遊具スペースが設置されていた。一応列車の中ということで安全上の問題があるためか、 遊具は係員がいるときにしか利用できないことになっていた。あと、従来のリゾート車両と同様、車内に絵や工芸品などが数多く飾り付けられている。
 乗車記念証を貰いがてら売店を覗いてみると、列車オリジナルの弁当も売られていたが、 もう既に3つも駅弁を食べた後で満腹状態のため、くまモンサイダーを買うにとどめる。
 宮地を発車する頃は車内の客はまばらだったが、阿蘇、赤水と停まるうちに客も増え、それなりの賑わいとなった。 有名な立野のZ型スイッチバックや、阿蘇の外輪山を刻む白川の渓谷など、豊肥本線のこのあたりの車窓は何度見ても飽きない。 車内では例によって客室乗務員による観光案内があるが、子供向けという列車のスタイルを意識してかクイズ形式となっていた。
 肥後大津を過ぎ、市街地をのんびりと走っていると、「並走するSL人吉に手を振りますので、興味のある方は集まってください」という放送が流れた。 何のことかよく分からないので行かなかったのだが、熊本駅の手前の鹿児島本線との合流部分で、本当にSL人吉が現れた。 向こうの車内では子供たちがこちらに手を振っている。並走は1km近く、2分ぐらいは続いただろうか。 わざわざ両列車が並走するよう絶妙なダイヤを組んでいるわけで、見事な演出に感心させられた。車内もこの瞬間が一番盛り上がっていたようだ。 それと同時に、明日SL人吉に乗るときは熊本から乗りたいな、と思い始めた。当初の予定だと新八代から乗るつもりだったのだが、 それでは一部の「演出」を見逃してしまうかもしれない。そこで、熊本駅に着くとあわててプランの練り直しにかかった。


豊肥本線に新たに投入された観光列車「あそぼーい!」。


車体にはマスコット「くろちゃん」のイラストがふんだんに貼られている。


車内にも「くろちゃん」のイラストがびっしり。


普通車の様子。座席は「水戸岡改造」らしからぬポップな色調。


座席の向きを固定し机を取り付けた4人用ブース席もある。


暖簾の向こうには、3列×3席の指定席からなる展望車がある。


この列車の目玉は、独特の形状をした「親子シート」。


親子シートのある車両には、子供用の遊戯スペースもある。


木のボールで埋め尽くされた「ボールプール」も。係員のいる時しか利用できないらしい。


黒い壁紙のせいか、居酒屋の個室のような密室感のあるフリースペース。


立野駅には、Z型スイッチバックに関する説明看板が設置されている。

熊本17:47発〜新八代17:58着 さくら417号

新八代18:01発〜八代18:04着

八代18:30発〜新水俣19:29着 肥薩おれんじ鉄道

新水俣20:09発〜鹿児島中央20:40着 さくら567号

 ひとまず成案ができたところで、熊本駅から新幹線に乗車する。本来だとこのまま鹿児島中央に直行するつもりだったが、 プランを変更し新八代で下車。在来線で八代に向かう。
 本来のプランだと、翌朝鹿児島中央から肥薩おれんじ鉄道経由で新八代に向かい、途中からSLに乗るつもりだった。 それをやめ、おれんじ鉄道のうち八代〜新水俣間の乗車を今日に回すことにしたのだ。明日は川内から出水までおれんじ鉄道に乗り、 出水から新幹線で熊本に向かえばSLに間に合う。それに、今の時間だとちょうど八代海に沈む夕日を拝めそうだ。
 学校帰りの高校生に混じり、八代を出発。次の肥後高田でさらに高校生を乗せ、2両のディーゼルカーはかなりにぎやかになった。 日奈久温泉を過ぎると、いよいよ海沿い区間を走る。八代海の向こうに、天草上島がうっすらと見える。 この区間はおれんじ鉄道、いや九州島内でも屈指の絶景区間だと思う。そして期待通り、天草の島影に沈む夕日を見ることができた。
 この辺では比較的大きい街である佐敷あたりで日が完全に沈み、何も見えなくなった。程なく新水俣に到着。 新水俣は、想像していた通り周囲に何もない駅だった。唯一駅前にコンビニがあり、ここで買い物をしたり、 博多で購入以来食べる機会を逸していた駅弁を食べたりして、新幹線に乗り継ぐまでの時間をつぶす。 そうして、ようやくやってきた「さくら」に乗り、鹿児島中央へ。ここで一日目は終了。


久々の乗車となる肥薩おれんじ鉄道の車両。


有明海に沈もうとする夕日。