サンフランシスコ鉄道案内

 先日、仕事の関係でサンフランシスコを訪れる機会があった。 アメリカというと完全なクルマ社会であり、公共交通は衰退しきっていると聞いていた。 実際滞在してみるとそれは間違いではなく、アメリカのほとんどの土地ではクルマなしでの生活は考えられず、 逆にクルマさえあれば実に便利な社会であることを実感した。
 公共交通の一端を担う鉄道も衰退しており、 例えばアメリカの長距離鉄道輸送を担うAmtrakも年々路線の縮小を余儀なくされている。 そんな中、まだ比較的鉄道が元気なのがサンフランシスコ・ニューヨーク等の大都市であり、 都心部と近郊を繋ぐ鉄道は日本並みの高密度輸送を行っている。
 鉄道ファンとしては、せっかくアメリカにいくのだから是非その土地の鉄道に乗ってみたい。 そこで、休みの日を利用して観光もそこそこに鉄道に乗車しに行った。

サンフランシスコの鉄道基礎知識

 まず最初に、サンフランシスコの地理を紹介する。サンフランシスコは、 三浦半島よりちょっと大きいぐらいの大きさの半島の先っぽにある都市である。 山がちな地勢も三浦半島そっくりで、サンフランシスコ中心部にも急坂が多い。 名物のケーブルカーが発達したのもその地形によるところが大きい。
 半島の先っぽにあるサンフランシスコから本土までは近く、有名なベイブリッジでつながっている。 ただしベイブリッジは自動車専用で、列車は地下トンネルを経由する。 ベイブリッジの本土側にある町がOaklandである。大リーグのアスレチックスの本拠地だ。 また、半島と本土の付け根にあるのが、シリコンバレーとして知られるSanJoseである。
 次に、サンフランシスコ周辺を走る鉄道を紹介する。 路線の長さで分けると、大まかにいって以下の路線が存在する。

 今回は、上記のうち上の3つに乗車した。それでは、乗車記を写真とともに紹介する。

Muni Metro

 サンフランシスコ市内の各地を結んでいる路面電車がMuni Metroだ。 私は今回、サンフランシスコの目抜き通りであるMarket Streetと後述するCaltrainの始発駅の間を乗車した。 この路線は基本的に路面を走るのだが、面白いことにMarket Streetの区間では地下を走る。 各路線とも市内各地からMarket Streetに集結する形で運行されるので、 地下区間では次々に電車がやってくる。乗り間違えないよう注意が必要だ。 各車両の先頭部に路線系統を示すアルファベットが大きく書かれているので、それをよく見ておけばよい。
 Market Streetの区間の駅には改札があり、チケットは券売機で事前に購入しておく。 その他の区間では、乗車時に乗務員に運賃を支払うようだ(実際に払ったわけではないので詳細不明)。
 この路線、結構遠くまで足を伸ばしており、市郊外の非常に静かな住宅街にあるレストランを訪れたところ、 いきなり店の目の前に電車が現れて驚いた。


Muni Metroの車両はどれも真新しい。

路面電車

 サンフランシスコにはMuni Metro以外にも、「ふつう」の路面電車が走っている。 Market Streetと観光地であるフィッシャーマンズワーフを結ぶ路線がそれで、 Market Streetの路上を走る唯一の路線である。
 この路線は観光客を主なターゲットにしているせいか、非常にレトロな車両を利用している。 床は木張り、ドアは木製という古めかしい車両で、見た限りいくつかの車種が走っているようだ。
 運賃は乗車時に車内で支払う。この際、おつりは出ないので、高額紙幣しか持っていない場合は注意が必要だ。 これはこの路面電車ばかりでなく、アメリカの公共交通機関ではよく見られる。
 先程書いたように、車両は非常にレトロで乗っていて楽しかった。 同じくフィッシャーマンズワーフとMarket Streetを結ぶケーブルカーにも乗ったが、 鉄道ファンにとっては路面電車のほうがある意味乗りごたえがあるかもしれない。


とてもレトロな路面電車。

ケーブルカー

 やや余談ながら、サンフランシスコ名物のケーブルカーにも少し触れておく。 ケーブルカーは路面電車同様、Market Streetとフィッシャーマンズワーフを結んでいる。 ただし、路面電車は両地点の間の山を避けて大きく迂回しているのに対し、ケーブルカーは両地点を一直線に結んでいる。
 ケーブルカーといっても日本の山岳ケーブルカーとは違い、路面電車同様公道の真ん中を走る。 ただし動力はケーブルとなっており、道路下の溝を這っているケーブルにクラッチのようなものを引っ掛けて動力としている。 この操作は実にアナログで、車両の真ん中に陣取った乗務員が大きな梃子を動かしている様子が乗っていると見えた。
 このケーブルカーはかつてはサンフランシスコの町中を走り回っていたそうだが、 モータリゼーションの影響で年々路線は縮小し、今では観光用にわずかな路線が残されているだけである。
 実際に乗ってみたが、日曜日とあって乗り場は混んでおり、たっぷり一時間近く待たされた。 大行列ができているにもかかわらず係員の動作は緩慢で、空の車両が乗り場で長く停車している場面も見られた。 このあたり、アメリカは良くも悪くもおおらかである。ケーブルカーは先頭となるべき側が固定されているようで、 終点で車体を転回する必要がある。転回作業は完全な人力で、転車台で係員がえっちらおっちらと車両を回していた。
 乗車する際は、写真にあるように車体につかまって乗ることもできる。 普通に乗るよりスピード感が得られそうだが、振り落とされないよう注意が必要だ。 スピードはさほどでもないが、坂が急である(こんな坂に家が建っているのが信じられないぐらいだった)ので、 振り落とされると坂を転がり落ちるかも知れない。


サンフランシスコ名物のケーブルカー。


坂を駆け下りるケーブルカー。 周囲の家と比べると以下に急な坂かが分かると思う。

BART

 サンフランシスコ都市圏の中距離輸送を担うのがBARTである。 運転形態や路線網は、東京メトロ等の日本の地下鉄とよく似通っている。 具体的には、Market Streetを中心に南はサンフランシスコ空港、東はOakland市内の各地に路線を延ばしている。 なお、車内はクロスシートで、日本の地下鉄と違いラッシュ輸送にも余裕があることが想像できる。
 私はAmtrakでOaklandの北のRichmondまでやってきて、ここからBARTに乗車した。 Richmondの駅は日本の私鉄の郊外駅といった風情であった。サンフランシスコ市内までのチケットを買って改札を入る。 列車はおおむね10〜15分の間隔で運転されているようだ。
 Richmondを発車し、列車は高架線を進む。沿線には住宅が並び、日本の都市郊外のベッドタウンとよく似た光景が続く。 しばらく走ると線路は地下に入る。最初はがらがらだった電車にも、途中駅からは次々と乗客が乗り込んでくる。 よく見ていると、揃いの黒いユニフォームを着ている。 一瞬何かと思ったが、レイダーズという地元のフットボールチームの試合の観客のようだ。 この列車は試合の行われるスタジアムの最寄り駅を通るため、多くの観戦客が乗ってきたらしい。
 しばらく走ると、列車は再び地上に出る。高速道路に挟まれたMacAuther駅に到着。 ここで、乗客たちはホームの向かい側に停車した列車に大挙して乗り換えていく。 が、例のアメフト観戦客は降りない。アメフトの競技場は、サンフランシスコ方面との分岐点より先にある。 ということは・・・。ここまで考えて、私は向かい側のホームの列車に乗り換えた。 これはどうやら正解だったようで、ここMacAuther駅では別の方面から来たサンフランシスコ行き列車と、 Richmondからの列車が相互に接続を取っているらしい。 長年いろんな鉄道に乗ってきた経験と勘で、無事乗り換えることができた。
 乗り換えた列車は地上に出たり地下に入ったりを繰り返しつつ、やがてサンフランシスコへ向かう海底トンネルに入った。 瀬戸大橋のようにベイブリッジの下層を走るのかなどとも期待したが、違った。 それでも列車は速く、あっという間に海峡を渡りきってサンフランシスコ側に到着した。


日本の地下鉄にもよく似たBARTの車体。


車内にはゆったりとしたクロスシートが並ぶ。

Caltrain

 Caltrainはサンフランシスコと、南に80kmほど離れたSanJoseとを結ぶ長距離路線である。 なお、平日の通勤時間帯はSanJoseよりさらに南まで足を伸ばすが、休日や平日昼間はSanJoseまでしか行かない。 しかも休日はわずかに1時間に1本しか列車が運行されない。 SanJoseは人口100万近くを擁する大都市で、サンフランシスコとの間にも宅地が広がっていることから、 日本ならばJR線と私鉄が各一本ぐらいありそうなものだが。
 サンフランシスコ側の始発駅は、中心部からやや離れた、サンフランシスコジャイアンツの本拠地の球場近くにある。 駅は新しいが、駅前にはホームレス風の人がうろついていて、夜などはやや治安に不安がありそうだ。 駅構内の券売機で切符を買い、列車に乗り込む。余談だが、券売機で切符を買ったところ、 おつりがあまり見かけない1ドル硬貨で返ってきた。(アメリカでは1ドルは紙幣が一般的である。)
 ホームに出ると、プラットホームの低さに驚かされる。日本の鉄道よりはずっと低く、 路面電車用のホームのようだ。その一方で車両の方はとんでもなく大きく、 5両編成の列車はまるで壁のようだ。ホームと車両床面との段差は1m近くもあり、 急なステップをよっこらせと登らねばならない。バリアフリーには程遠い構造だが、 車椅子マークのついた車両もあったので、何らかの昇降機が付いているのかも知れない。
 車内に入ると、内部は2階建て構造となっている。ただし日本の2階建て車両とはやや構造が異なっている。 2階の床面は中央部分が欠き取られ、その部分は1階の通路となっている。 その分2階の座席は少なく、一人掛けのシートが通路左右に配置されている。なお、1階は一般的な2人掛けとなっている。 通勤時などに、なるべく多くの客を着席させようという意図がうかがえる。
 5両編成の列車はがらがらのまま発車。高架下の線路をのろのろと進む。最初の駅は22nd street。 ずいぶん場末な位置にあり、利用者がそれほどあるようには思えない。案の定、誰も乗ってこなかった。 列車はトンネルを抜けつつどんどん南下していく。車窓にあまり家々は見えない。 サンフランシスコの港を時折見つつ、海沿いを進んでいく。 車内の停車駅放送は車掌による肉声で、このあたりは日本っぽい。
 やがて列車は、Millbraeに到着。ここはBARTとの乗換駅で、 ここで乗り換えてサンフランシスコ市街や空港方面に向かうことができる。 この駅では少し乗客があったようだ。  列車はサンフランシスコの郊外を淡々と進んでいく。周囲はそれなりの市街地のはずだが、 日本のように線路際まで家が建っていたりはしない。土地に余裕があるので、 わざわざうるさい線路際に住む人などいないのだろう。 途中少しうとうとし、目を覚ますと列車はStanfordという駅に到着した。 あのスタンフォード大学の最寄り駅ということだが、駅前には森が広がっていて大学の建物は見えなかった。
 サンフランシスコから各駅に停車しつつ進むこと1時間半、終点のSanJoseに到着。 80kmで1時間半だから、表定速度は50km/hちょいということになる。鈍行列車なのでそんなものかなと思うが、 都市間を結ぶ唯一の交通機関にしては時間が掛かりすぎかなと感じる。 SanJoseはシリコンバレーの中心地であり、ハイテクの町という印象があるが、 駅舎は相当昔からあるであろう古風なものだった。


Sanjose駅でAmtrakと並ぶCaltrainの牽引機関車。どちらもかなりの巨体だ。


Caltrainの編成。全車二階建てで、かなりの収容力がありそう。


Caltrainの車内。日本では見られない独自の2階建て構造になっている。

Amtrak Capital Corridor号

 AmtrakのCapital Corridor号は、SanJoseを起点にOaklandを経由し、州都のサクラメントまで向かう列車である。 休日はSanJose始発の便が1日7本、Oaklandから先はもう少し本数がある。 走行距離は数百キロに及ぶが、これでもAmtrakでは短距離路線に分類される。 終点までは3時間ほど掛かるため、車内にはビュッフェコーナーがあり、座席にはメニューが備え付けてある。
 SanJoseから、サクラメント方面行きの列車に乗り込む。 Caltrain同様の巨大な車体で、内部は完全な2階建てとなっている。列車は5両編成だが、乗客はさほど多くない。 座席は自由席なので、空いているボックスでくつろぎながら、SanJoseを発車。
 発車してしばらくすると、列車は広大な湿地帯を走る。 線路沿いには朽ち果てた木造の小屋がある。まるで日本海沿いを走っているかのようだ。 しばらく走り、Fremontという駅に到着。ここは駅前に古い駅舎が再現されている。 鉄道の衰退したアメリカだが、鉄道黄金期を懐古するという文化は残っているようだ。
 列車は田舎びた土地を走る。途中、線路が分岐していく箇所がいくつもある。 アメリカの鉄道は今や旅客輸送より貨物輸送が主で、途中長大な貨物列車(一編成に貨物車が100両以上!) ともすれちがった。
 やがて列車はOaklandに入り、Oakland Coliseum駅に到着。 ここは先程述べたNFLのレイダーズの本拠地であるスタジアムの最寄り駅で、BARTとの乗り換えも可能だ。 次の駅はOakland。バスでサンフランシスコ方面に連絡している。 Oakland駅を出ると、巨大なヤードを脇に見つつ列車は港湾地帯をゆっくりと進む。
 次のEmeryville駅はAmtrakの通らないサンフランシスコに代わって鉄道の玄関口となった駅で、 シカゴやシアトル、ロサンゼルスといった遠方まで走る長距離列車が発着する。 その割にプラットホームは殺風景で、そっけない感じだ。 引き続き列車は港湾地帯を走り、Richmondに到着。私はここで下車した。 AmtrakのRichmond駅は何と無人だった。運賃は車内で車掌に支払うのだろうか。その辺はよく分からなかった。


ブルーに塗装されたAmtrakの機関車。


車内はゆったりとしたクロスシートとなっている。 4人席にはテーブルも備えている。


長距離列車だけあってビュッフェも営業しており、 メニューが各座席に置かれている。