プロフェッショナル? 乗り鉄の流儀

 何だかNHKの某番組のパクリのようなタイトルだが、 私の鉄道旅行がどんなものであるか、その実態を書いてみようと思う。 普通の人が旅行に行くとなると、どんな準備をし、旅行中どんな生活パターンを送るだろうか。 普通、旅行に行くとなるとガイドブックや旅行会社のパンフレットで情報収集をし、 一ヶ月前ぐらいからチケットや宿を手配する人が多いだろう。 旅行中何をするかは人それぞれだが、昼間は観光、夜は温泉に浸かって食事、というのが典型パターンだろうか。
 が、私の旅はずいぶん違う様相を呈している。時と場合にもよるが、大体以下のようなことを考えて旅をしている。

目次

旅の準備

 私の場合、電車の切符を取るのは一部を除いて早くても3日前、下手をすると当日だったりする。 前もって準備するのが苦手な性格だからというのもあるが、 私の旅行の場合かなりの本数の列車に一日で乗車するため、 プランを立てるのに相当時間がかかるというのも理由のひとつである。
 特に乗りつぶしの旅の場合はそうだが、 一日になるべく多くの路線を効率よく詰め込もうとするため、プラン立案は困難を極める。 乗る路線の順番を変えてみたり、宿泊場所を変えてみたり、 あるいは列車の代わりにバスがないか探してみたりと、 いろんな試行錯誤を繰り返す。その試行錯誤の例を紹介する。
 2002年に新潟の未乗線を乗りつぶしたときの例を挙げてみよう。 この旅行は、18きっぷの亜種である鉄道の日記念きっぷで越後線・弥彦線と、 羽越本線の新津〜新発田間に乗車するというのが大前提だった。 このケースでは、以下の流れでプランが決まった。
 (1)まず、新潟まで往復する手段を考える。 このときは鉄道の日記念きっぷ使用なので、ムーンライトえちごを使うか、 素直に上越線の普通列車に乗るか、あるいは犀潟から北越急行で越後湯沢に抜ける手もある。
 (2)次に、越後線・弥彦線にどのルートで乗るか考える。 両線は十字の形で交わっているが、この場合一本道を進むわけには行かず、 どこかで同じ線を往復する必要があり面倒くさい。 弥彦線より越後線の方が距離が長いので、弥彦線を折り返すことにする。 羽越本線の新津〜新発田間は、ムーンライトえちごで新発田まで行って折り返してくれば乗れそうだ。
 (3)時刻表で、どの線が本数が少ないか確認する。 このケースでは、越後線の西部と弥彦線の本数が非常に少ないので、 両線をいかに組み合わせれば効率がよいかを検討する。ここが一番時間がかかる。 このケースでは越後線・弥彦線に他に信越本線も絡めてプランを検討した。
 (4)結果、弥彦駅で2時間も待ち時間ができてしまった。 弥彦からの折り返し列車がないことが原因なので、 弥彦へ至る交通手段が他にないか調べる。 新潟からの高速バスやタクシー、果ては弥彦競輪の無料送迎バスまで検討したが、 弥彦を早く出てもその先の列車がないことから断念した。
 以上のプランニングが完了した時点で、初めてムーンライトえちごの指定席を取りに駅へ行った。 このケースでは10月なのでムーンライトえちごは空いていたが、 盆正月の繁忙期はこうはいかない。この列車は全車指定なので、 これに乗れないとプラン自体が崩壊する。夜行列車や「リゾートしらかみ」などの観光列車、 東北新幹線のはやて・こまちといった全車指定列車は早めに押さえておく必要があり、 それが無理なら利用しないプランを考えるしかない。

旅の時間

 私は早起きは得意なほうではないが、旅行のときだけは早起きする。 一般的なホテルのチェックアウト時間は早くとも10時だが、 そんな時間までホテルにいた試しはなく、たいてい6時には宿を後にする。 そのため、朝食つきの旅館を利用することはなく、 宿泊するのはたいてい駅前のビジネスホテルである。 最近は無料で朝食が食べられるというサービスを行っている某大手ホテルチェーンもあるが、 残念ながら一度も利用できずじまいである。
 そんなに早起きする理由は、日のある時間帯をフル活用して車窓を楽しむことに尽きる。 やはり、どうせなら夜間に列車に乗るのは避けたいものだ。 では、日の出ている時間帯とはいつからいつまでなのだろうか。季節や場所によって日没の時間は相当異なる。 そこで、私はプランを組むにあたって国立天文台のWebページで日没の時間を調べることにしている。 大体、日の入りから10〜20分ぐらいは何とか外が見える。30分経つと外は真っ暗になる。

旅の食事

 旅行記を見て頂くと分かるとおり、私の旅行では鉄道に乗っている時間がほとんどで、 まともな観光をすることはほとんどない。 そのため、特に昼間はゆっくり食事をする時間もないことが多い。 以前は乗り継ぎの合間にコンビニで弁当やパンを買い、 車内で食べるということが多かったが、それでは味気ないので、最近は旅先で極力駅弁を食べることにしている。
 最近、駅弁はコンビニや大手外食チェーンとの競合、列車の高速化、 普通列車のロングシート化等により厳しい経営環境におかれ、 撤退する業者が後を立たない。その分、地域性豊かなメニューを考えたり、 個性的な容器を使用するなど、コンビニ弁当との差別化で生き残りを図っている。 そのため、街に出る時間はなくても駅弁でご当地の名物が食べられたりもする。
 そんな訳で、最近は駅弁を食べる機会が増えたが、 駅弁はある程度の規模の駅でないと売っていないし、夕方以降は種類が減少したり、 下手をすると店自体が閉まっていたりもする。地方の小さな駅ほど店じまいは早いようだ。 各駅での駅弁の販売状況や、売店の営業時間、 あるいは狙い目の駅弁を事前にWebで調べておくほうがよいだろう。
 夕食は、宿泊するホテルの近所で済ませることが多い。ただ、地方だと店じまいが早かったり、 そもそもめぼしい店が駅近辺にないこともある。 地方ではクルマ社会の進展の結果、駅周辺の空洞化が進んでいるからだ。 そんな訳で、コンビニ弁当や、駅前の盆踊り会場で買った焼きそばで夕食を済ませたこともある。 旅先での食事を充実させるには、なるべく店の多い大都市で宿泊するほうがいいのだろう。

旅の持ち物

 見てのとおり、私の旅は移動の連続で乗り換えも多い。 従って、「荷物は極力少なく」というのが基本である。 一泊程度の旅行なら通勤時に使う小さなバック一つ、 5泊ほどの旅行でもスポーツバッグ一つに押さえるようにしている。
 具体的に何を持っていくかというと、 一泊旅行の場合は下着、髭剃り、コンパクトデジカメ、切符、ポケット時刻表、 夜間に列車に長く乗るときは暇つぶしの本といったところだ。 タオルや歯ブラシはホテルに備え付けてあるので持っていかない。 また、大型時刻表を必ず持参する鉄道ファンも結構いるが、私は重いので持っていかない。 長期の旅行だと、これにデジカメや携帯電話の充電器、着替えなどが増える。
 この他持って行くといいものとしては、特に夏場は車内で上に羽織るものがあったほうが良い。 車内の空調の影響で車内が寒いことがあるので、風邪防止のために必要だ。 また、夏場汗をかいてそのまま車内に乗り込むと身体が冷えるので、汗を拭くためのタオルも持っていったほうが良い。
 あとは、腹の弱い人は下痢止め。行程によっては、 長時間トイレにいけないことがあるので私も必ずもって行く。

旅の同行者

 このWebページの旅行記を見て分かるとおり、私の旅行はほぼ100%が一人旅である。 たまに、鉄道旅行をした後同行者と合流して、そこから先は普通の観光旅行というパターンもあるが、 ともかく鉄道旅行には同行者はいない。
 もっとも、私の旅行の行程を見れば、よっぽど奇特な人でない限り付いてこないであろう。 朝から晩まで一日中列車に乗りっぱなしというのが常だからだ。
 よく、人間の集中力は2時間が限界だといわれる。 テレビの殺人事件もののドラマや、映画が大体2時間前後に収まるように作ってあるのはその辺を考えてのことだし、 スポーツでもサッカーは2時間以内で終わるし、大相撲も幕内の取組は2時間以内に収まる。 プロ野球は試合が時に3時間を越えるため、試合時間の短縮が叫ばれている。
 列車も同様で、普通の人がじっと座っていられるのは2時間から3時間が限界とされ、 それより所要時間が長い列車は、競合する航空機に比べて不利といわれる。 東海道・山陽新幹線を例に取ると、 東京からの所要時間が3時間を切る新神戸までは新幹線が航空機に比べ高いシェアを持つが、 3時間を越える岡山・広島となると途端にシェアが落ちる。 広島などは空港が市内から極端に遠く、空港アクセスを加味すると所要時間はほぼ互角なのにである。 もちろん料金面などの要因もあろうが、乗車時間の長さが敬遠されている面も無視できないだろう。
 このように、普通の人は列車に長く乗ることを極端に嫌がる。 以前、釧路から札幌まで特急「スーパーおおぞら」に4時間乗車した後、 同行者に「あの列車は時間がかかって辛かった」といわれた時は、どうしようかと思った。 途中の車窓は無人地帯あり、海あり、狩勝峠の山越えありと変化に富んだものだったし、 池田駅でステーキ弁当を予約して配達してもらうなどして、 私は飽きるどころか丁度よいぐらいだったのだが。 これでは普通の人が私の鉄道旅行についてこれるわけがないなと思った。
 このような理由で、私の旅行はいつも一人旅なのだが、 列車から車窓を眺めたりする分には一人の方がよい。 他の人と一緒にいると、どうしても他人とのおしゃべりに注意力が行ってしまい、車窓の印象があまり残らないのだ。
 逆に、列車から降りてしまうと一人だと都合が悪いことが多い。 例えば、2人旅であれば片方が荷物を持って自由席の列に並び、もう片方が駅弁を買いに走るといった芸当ができるが、 一人だと両方をこなさないといけない。これは結構大変だ。
 また、夜食事に行く時も2人以上のほうが都合がよい。せっかく旅先でうまいものでも食おうかという時、 一人だとどうしても焼肉屋や居酒屋などには入りにくいし、 やっぱり食事は大人数の方が楽しい。一人旅だと夜の食事にはいつも悩まされる。

旅の季節

 私はサラリーマンなので自由に休みを取るというのは難しいのだが、 それでも盆、暮れ、ゴールデンウィークにはそれぞれ一週間程度の連休が取れるのが常で、 その点では世間の人よりは恵まれているのかもしれない。
 さて、その3つの中で最も旅に出かける頻度が高いのはゴールデンウィークである。 記録を調べてみると、2004年以降は2009年と2011年を除き、(鉄道旅行でないものを含め)毎年長期の旅行に出ている。 その理由としては、まず盆や正月に比べて季節が良いこと。また、夏至に近いので日が長いという点でも、 鉄道旅行には有利である。それに、盆暮れは実家に帰ろうという人が多く、 学校も休みであるためとにかく列車が混んでいる。やっぱり車内で子供が走り回っていたりすると、 旅情は減殺されてしまう。一方、ゴールデンウィークの特に前半は休みの人が少ないためか列車は混んでおらず、 私にとっては一年で最も旅に適した時期といえる。
 では、長期連休を除いた時期はどうだろうか。 まず、冬場の1月と2月だが、この時期はほとんどどこにも出かけていない。 寒くて外に出る気がしないというのと、日が落ちるのが早いというのが致命的だ。
 冬から春へと移り変わる3月から4月にかけての時期は、 暖かくなって気分が高揚してくるせいか出かける頻度は高い。 この時期は、車窓から見る桜が旅に色を添えてくれる。4月下旬に東北地方へ出かけると、 関東ではとうに散ったはずの桜を見ることができる。
 それに続く5月、6月も出かけるにはいい季節なのだが、 ゴールデンウィークで力を使い尽くしてしまうためか、案外出かけていない。 この時期は祝日がないことも影響しているのかもしれない。
 夏場の7月と8月は、お盆を除くと出かける頻度が少ない。 暑いし列車が混んでいるというのもあるが、特に7月前半は豪雨となる頻度が高く、 天気予報をにらみながら出かけるかどうかを見極めねばならないというデメリットがある。台風が多いのも困りもの。 ただし、夏は海が最もきれいに見える時期である。冬場は寒々としている日本海も、この時期ばかりは青く美しい。
 暑さが収まる9月から11月にかけては、実は一番出かける頻度の高い時期である。 10月には「鉄道の日きっぷ」という、青春18きっぷに似た企画乗車券が販売されるため、 これを利用することが多い。それに、木々が日に日に色づく秋は車窓に味わいが出ていいものだ。 個人的には、一番車窓がきれいな季節ではないかと思っている。 10月中旬、秋田新幹線の田沢湖付近で見た紅葉は、今でも忘れられない。 ただし、12月になると葉が完全に枯れてしまうし、目前に年末年始が迫ってくるため、 出かける頻度は下がってくる。