最終更新日:2020/11/8

九州、D&S列車の旅:二日目―SL人吉、いざぶろう、はやとの風と桜島フェリー

目次

2014/5/2

鹿児島中央6:32発〜川内6:44着 つばめ308号

川内6:57発〜出水8:03着 肥薩おれんじ鉄道

出水8:27発〜熊本8:59着 さくら544号

 翌朝、新幹線で鹿児島中央から川内へ向かう。乗車した車両は800系の後期車で、 妻面に金箔を貼り絵を飾るなど、JR九州らしい独特の内装が印象的だ。
 川内からは昨日に続き肥薩おれんじ鉄道に乗る。川内を出てすぐの薩摩高城から牛ノ浜までは海沿いの区間を走り、 絶景を眺められる。もっとも、昨日八代あたりで見たのとそれほど変わるわけではないので、わざわざ無理に早起きして乗らなくても良かったかな、 とも思った。このあたりの区間では国道3号線がずっと並走しているのだが、これが片側1車線の貧相な道で、 天下の一ケタ国道とは思えない光景だった。
 折りしも通学時間帯でもあり、各駅で高校生を乗せながら列車は進んでいく。 野田郷、西出水といった駅で高校生が下車していき、出水に着く頃には車内は一気に閑散としてしまった。 出水から再び新幹線に乗り、一気に熊本へ向かう。


800系の後期車で2日目の旅を開始。木製フレームの椅子が並ぶ車内は明らかに他の新幹線とは異質である。


肥薩おれんじ鉄道で鹿児島から熊本へ。このあたりでは国道3号線と海岸付近を並走する。

熊本9:44発〜人吉12:13着 SL人吉

 熊本駅に戻ると、既にSLが入線していた。 群がる観光客に交じって一通り写真を撮った後、車内に入る。 内装はこれまたJR九州らしく凝ったものだ。昔の客車の「ダブルルーフ」を思わせるような天井が特徴的。 座席もボックスシートながら机が備え付けられた重厚なものだ。 ちなみに、座席は2人用と4人用が入り混じっており、2人席の場合は向きに当たり外れ(進行方向向きか逆向きか)があるので、 座席はよく吟味しておきたい。
 一通り座席が埋まったところで、発車。SLらしいゆっくりとした発車で、発車時の衝撃は全くない。 しばらく進むと熊本の車両センターがある。ここには以前乗った「あそ1962」用の気動車がボロボロの姿で放置されていた。 真っ平らな熊本平野をゆったりとした速度で進むうち、客室乗務員の女性がやってきて、挨拶。 ここで、沿線の見どころを記載した紙が配られた。また、近年沿線では、SLに対し手を振る運動というのをやっているので、 手を振り返してあげてくださいとのこと。確かに、お年寄りや子供を中心に列車に手を振る人がいた。
 しばらくしたところで、乗車記念証を貰いがてら売店を覗いてみる。すると、車内限定の駅弁というのを売っていたので、買ってみる。 「おごっつぉ弁当」といい、大きなおにぎりが2つ入った豪快なものだった。
 やがて列車は新八代に着く。ここで早くも降りる人がいたのが意外だったが、乗ってくる人もいて車内の座席は埋まったままだった。 次の八代ではしばし小休止。先頭部にはSLを撮影しようとする人が群がっていた。 八代からはいよいよ肥薩線に入る。球磨川の清流に沿って走る絶景の区間だ。
 ぼんやり車窓を眺めているだけでも楽しいが、一般の人はやはりそうはいかないようで、 客を飽きさせないように途中いろいろとイベントがある。 まず、球磨焼酎を使ったアイスというのを売りに来た。思わず買ってみたがなかなか良かった。 また、停車駅では比較的長く停車するのでSLの撮影もできる。汽笛を鳴らして黒煙を上げてくれるサービス付きだ。 そして、恒例の写真撮影も行われた。何となく断り切れずに1枚撮ってもらう。
 そうしているうち、列車は鉄橋を渡って川の反対側を進むようになり、席から川の流れが見えなくなった。 そこで、この列車の名物の展望スペースに行ってみる。先頭には子供用の小さな椅子が据え付けられていて、実際に座っている子供もいた。 ここにもアイスの車内販売が来て、結構売れているようだった。
 やがて列車は一勝地に着く。ここでは駅構内に出店が来ていて、地元の名産品を売っている。 焼酎の試飲というのもあり、一杯飲んでみる。試飲だけして帰るというのも何なので、「いきなり団子」を1つ購入した。 この列車に乗って以来、こういう「買い食い」がやたら多い。 車窓の球磨川は上流部に差し掛かり、流れが急になってきた。球磨川下りの観光船が運航するのはこのあたりで、最近はラフティング体験もできるという。
 やがて車窓に街が広がってきて、終点の人吉に到着。2時間半の長丁場だったが、途中の楽しいイベントのおかげであっという間に感じられた。 駅のホームには今や数少なくなった駅弁の立ち売りがいたので、今後のことを考え一つ購入する。 名物の「栗めし」は何度も食べたので、あまり見たことのないのにしておく。


高架化が進む熊本駅で発車を待つSL。整備の行き届いた車体は艶やかだ。


座席はソファー風の重厚な造りで座り心地も上々。少しシートの背が低めなのが特徴。


天井はダブルルーフの旧型客車を模した構造で、取り付けられた金具も昔風。


編成の最前部と最後尾はガラス張りの展望スペースとなっている。


展望スペースの様子。眺めが良いためか、ここにずっといる客も多い。


展望スペースの一番前には、子供向けの小さな椅子が並ぶ。設計者のこだわりで設置されたらしい。


車内の売店スペースは広く、売られている商品も多彩で飽きさせない。


肥薩線の起点である八代駅で発車を待つSL。


運転台にはおびただしい数の機器が並ぶ。運転には相当の熟練が必要そう。


球磨川沿いの小駅である白石駅には、古めかしい駅舎が健在。


白石駅で黒煙を上げて発車を待つSL。昔ながらの駅に佇む姿は実に絵になる。

人吉13:21発〜吉松14:47着 いさぶろう3号

 人吉では1時間余り待ち時間がある。人吉といえば温泉地であり(くま川鉄道の人吉駅は「人吉温泉」と名乗っているほど)、 待ち時間を活かして一風呂浴びていこうと思う。駅の観光案内所で聞くと、駅の近くに日帰り入浴のできる旅館があるというので、 行ってみることにした。
 風呂に入ると、先客は誰もいなかった。お湯につかると、肌に大量の小さな泡がまとわりついてきた。そういう泉質なのだろうか。 しばらく浸かっていると、同い年ぐらいの男性が入ってきた。するとその男性に「SLに乗ってましたよね」と話しかけられた。 話を聞くと、彼は千葉から来ていて、昨日の大分から私と同じ行程(肥薩おれんじ鉄道のあたりは除く)で旅しているらしい。 そういえば、豊肥本線の豊後竹田〜宮地間で見かけたな、と思い出した。 そして、今日はこれから私と同じ列車で鹿児島に出て、明日は宮崎に移動して日南線の「海幸山幸」に乗るそうだ。 海幸山幸は私も乗ってみたかったので、うらやましい限り。それにしても、似たようなことを考える人がいるものだ。
 駅に戻ると、既にこれから乗る「いざぶろう」が入線していた。列車はかつては1両で走っていたのだが、 今日は3両の長い編成で、人気が定着してきていることが伺える。 車窓については以前の旅行記に書いたので詳しくは述べないが、ほとんど地元の利用のない途中駅、 スイッチバックやループ線など今となっては冗長な設備群、剥製のような姿で矢岳の機関庫に眠るSL、 これらの姿を見ると「無常」という言葉が浮かんでくる。こういった「枯れた」雰囲気がこの区間の魅力だと思うのだが、 横に座った家族連れの子供たちはつまらなさそうにしていた。子供に理解しろというのはさすがに無理があるか。
 この日は天気は良かったがガスがかかっていて、真幸駅手前の展望ポイントから桜島は見えなかった。 前回は見えたのだが、見える方がむしろ珍しいのかもしれない。人吉から1時間余りで、終点の吉松に到着。


「いざぶろう3号」は「九州横断特急」から接続を取って発車。


「いざぶろう」の車内には、古民具のような濃い茶色のシートが並ぶ。


車内には他のD&S列車と同じくフリースペースが設けられている。


大畑駅の先にあるループ線を抜けると、先ほど通り過ぎた駅構内の様子を一望できる。


昔にタイムスリップしたかのような矢岳駅。


相当昔からあるのだろうか、毛筆体の駅名標が残されていた。

吉松15:03発〜鹿児島16:27着 はやとの風3号

 吉松では2度目の乗車となる「はやとの風」に乗り継ぐ。実はこの列車、事前に指定席券を買おうとしたところ何故か満席で、 仕方なく自由席に乗る心づもりでいた。ところが当日の朝、鹿児島中央駅で調べてみると何故か空席が3席もあった。 海側の窓際の席も空いていたので、無事席を抑えることができた。 何らかの理由で確保されていた「調整席」が、当日になって解放されたのだろうか。
 そこまで気を揉んだ列車だったが、実際に乗ってみると自由席もそれほど混んでおらず、指定席にもわずかながら空きがあった。 列車に乗り込むと早速、予約しておいた駅弁「かれい川」を受け取る。予約分しか残っていなかったようなので、 予約しておいたのは正解だった。ちなみに本州から駅弁を予約する場合、通信販売を利用する必要があり、駅弁代のほかに郵送料が別途かかる。 これが結構高額なのが困りものだ。ちなみに、乗車日の2日前までに九州入りすれば、JR九州のみどりの窓口等で買える。 予約は2日前までに行う必要があり、今回は通販に頼らざるを得なかった。
 車窓の方はこれまた前回と変わらないので割愛するが、大隅横川や嘉例川といった古い駅舎が残る駅では停車駅が多めに取られており、 見学ができた。嘉例川などは知名度が上がり、いっぱしの観光地になりつつあった。 嘉例川から隼人にかけては深い森の中を進むが、このあたりは30パーミルもの勾配になっていて驚いた。 実は、勾配のきつさでは人吉〜吉松間の山線区間に引けを取らないのだった。
 隼人を過ぎてしばらくすると、鹿児島湾に沿って海沿いを走る。この列車の目玉といっていいだろう。崖の下にある竜ヶ水駅を過ぎ、 海の眺めを堪能したところで、鹿児島駅に到着。市の代表駅のような名前を持ちながら実は中心部からは外れているというので有名な駅だが、 何故かここで下車する。先程風呂で話した男性に軽く挨拶して、外に出た。


この旅最後の列車となる「はやとの風」。真っ黒な車体が特徴だ。


嘉例川駅は「はやとの風」の客以外も訪れる観光スポットと化していた。

鹿児島港16:50発〜桜島港17:05着 桜島フェリー

桜島港17:45発〜鹿児島港18:00着 桜島フェリー

 鹿児島駅で下車したのは、ちょっとした時間つぶしを思いついたためである。 駅から10分ほど歩いて向かった先は、桜島へ渡るフェリーの乗り場。このフェリーはかなりの頻度で運航しており、 今の時間は10分間隔とバス並みの頻度である。そのため、気軽に海の散歩を楽しめる。
 乗り場に着くとちょうどフェリーが出た直後だったが、程なく桜島の方から別の船がやってきた。 この船は普通の船と違って、フェリーの両側に操舵室があるのが特徴だ。普通の船だと、到着か出発の際に船を180度回転させてやる必要があるが、 運航頻度の高いこのフェリーではそんな時間はない。そのため、こんな構造になっているのだろう。
 乗ってみると船室は2階建てで、その上にはデッキもある。かなり収容力はありそうだ。 せっかくなのでデッキの先頭に立ち、海を眺める。船からは、先程通ってきた竜ヶ水のあたりがよく見える。 見てみると、鹿児島湾にあたる部分だけが深くえぐれたような地形になっているのがわかる。 確か、鹿児島湾自体が阿蘇や箱根と同じくカルデラになっている。その火口にあるのが桜島である。
 そうして海を眺めているとだんだん桜島が目の前に迫ってきて、桟橋に到着する。 近くの海沿いに公園があるというので行ってみると、海の向こうに鹿児島市街が見えた。 活火山のほど近くに、これ程大きな都市があるというのも、何だか不思議な感じだ。 そして、公園には30mもの長い足湯がある。足を浸してみると、熱くて10秒と入っていられない。すぐに入るのを諦めた。 足湯の「下流」の方に行くと、温度が低くぬるま湯のようになっていたので、ちょうどいい温度の場所を吟味する必要がありそうだ。
 再びフェリーで鹿児島市街に戻り、路線バスで鹿児島中央に戻った後、今度は高速バスで鹿児島空港に向かう。 鹿児島空港は先程通った嘉例川駅の近くにあり、市街からだとずいぶん時間がかかった。 空港では時間が余ったので、食べる機会を逸していた駅弁「かれい川」を食べる。時間が経ってしまったのでやや味が劣化していたが、 それでもどのおかずも美味しかった。次来る機会があればまた買ってみたい。
 羽田行きの最終便で東京に戻る。今回の旅行は短期間だったが、なかなかハードだった。


桜島フェリーは折り返しの効率を上げるため前後に2つの操舵室がある。


フェリーは目の前の桜島に徐々に近づいていく。