最終更新日:2020/10/21

大井川鉄道名物・SL列車に乗る―ワイルド過ぎる吊り橋に冷や冷や

 この日は珍しく平日休みが取れ、6年ぶりに大井川鉄道に出かけた。 以前乗ったときは大井川鉄道名物のSL列車に乗らなかったし、何より前回車窓から見た吊り橋を歩いてみたかった。 前回は紅葉シーズンで猛烈に列車が混んでいたが、今回はどうだろうか。

目次

2012/11/2

新横浜〜静岡〜金谷

新金谷12:23発〜塩郷12:55着 大井川鉄道

 

 新幹線と東海道線を乗り継いで、金谷駅へとやってきた。大井川鉄道との乗り継ぎには余裕があるので、 金谷駅裏にある東海道旧街道の石畳を歩いてみる。道はかなり急な上に、石畳の道は歩きにくく、 昔の旅人はさぞ大変だったのだろうなと思う。それでもまだ時間があるので、隣の駅である新金谷まで歩いてみることにした。 金谷を出てしばらくの道は、東海道の旧街道の道筋を継承している。そのせいか、道すがらには老舗が多いように感じる。
 しばらく歩いて、新金谷駅に到着。この駅に来るのは初めてなのだが、駅周辺には観光バスや乗用車の駐車場が多数設けられている。 駅近くの建物には広い待合室や大きなSL指定券の販売窓口があり、 売店には土産物が山積みされている。ちっぽけな金谷駅とは大違いである。
 そんな様に驚きつつ、駅の窓口で硬券の乗車券を買い、列車に乗り込む。やってきたのは南大阪線を走っていた元近鉄特急である。 座席はボックスシートに固定されているが、座り心地は特急で働いていた頃と変わらず、快適である。幸い車内も空いていた。
 新金谷を出た列車は、しばらく走ると金谷の市街地を抜け、雄大な大井川に沿って走る。 はるばる静岡までやってきて良かった、と思う瞬間だ。そういえば、こうやってローカル線に乗るのは久しぶりである。 去年青森に出かけたとき以来ではなかろうか。
 そうやってしばし車窓を眺めていると、目的地である塩郷に着く。小さな待合室がちょこんと建つだけの無人駅だ。


金谷駅の裏手には、旧東海道の立派な石畳がほぼ昔のまま残る。


木造のレトロな新金谷駅。駅舎の中には土産物店や駅弁店が入居し、賑やかだ。


元近鉄特急で大井川鉄道の旅をスタート。


新金谷の構内には様々な車両が留置される。この車両はナロ80というオリジナル車両で、お座敷車になっている。

塩郷14:13発〜川根温泉笹間渡14:22着 大井川鉄道

 なぜそんな小駅でわざわざ下車したかというと、この駅の近くにある吊り橋が以前から気になっていて、一度渡ってみたいと思っていたからだ。 この吊り橋は「塩郷の吊り橋」と通称されているのだが、かなり幅の広い大井川と、大井川鉄道の線路や道路をひとまたぎする規模の大きいもので、 長さは220m、高さは最大11mもあるらしい。
 早速吊り橋に向かい、渡ってみる。すると、その恐怖感は想像以上だった。まず、下が丸見えであるので、否応なく高さを実感してしまう。 元々高いところは得意でないので結構恐怖を感じる。そして、揺れも想像以上に感じる。歩くとどうしても橋が上下に振動するし、 強い風が吹くと横揺れも起きる。最初のうちは、わざわざここまで来たことを後悔したほどだ。
 それでも、慣れてくるとあまり高さの恐怖を感じなくなってきた。揺れの方も、変に揺れを抑えようと立ち止まるのではなく、 開き直って橋を揺らしながら早足で歩くほうが怖くないことがわかってきた。最後の方は途中で立ち止まる余裕も出てきて、 あっさり渡り終えることができた。
 次の列車までかなり時間があるので、橋の向こうの集落を散策してみる。とはいっても、 茶畑と製茶工場、やっているのか分らないような理髪店しかなく、あまり時間つぶしにはならなかった。 再び吊り橋を渡って、駅へと戻る。なお、吊り橋のすぐ上流にはダムがあり、そこには普通の橋もあるので、 帰りにまた吊り橋を渡るのが嫌な方はそちらを通ることもできる。
 待合室でしばらく待ち、やってきた列車で川根温泉笹間渡へ向かう。今度の列車も元近鉄の車両だった。


塩郷駅は、駅のすぐ裏手が大井川の河川敷という立地にある。


吊り橋の入り口から撮った図。足下には民家の屋根や鉄道の線路も見え、スリル満点。


橋の踏板の幅は一人の人が何とか歩けるほどしかなく、思わず足がすくむ。

川根温泉笹間渡14:40発〜新金谷15:27着 大井川鉄道

 川根温泉笹間渡は、古びた駅舎が建つ無人駅だった。周囲に人の気配はあまりないが、 少し離れたところに温泉施設があり、その客を当てこんでかSL急行が停車する。そこで、帰りはこの駅からSLに乗ることにした。
 ホームで待っていると、お年寄り2人とその娘さんが車でやってきた。聞くと、お年寄り2人を駅まで送ってきたらしい。 そして、お年寄りはこの列車に乗るのが初めてなので、乗り方を教えてやってほしいといわれた。 今度の列車は車掌も乗務しているので大丈夫ですよと伝えたが、地元の人もSL急行に乗るとは意外だった。
 やがて、煙をもくもくと上げながらやってきたSLに乗り込む。客車は古色蒼然とした旧型客車で、 もちろんドアは手動である。私はこれまで数多の列車に乗ってきたが、SLに乗るのは実はこれが初めてである。 旧型客車の方も、津軽鉄道で乗って以来2度目だ。
 SLは電気機関車などと比べて牽引力が弱いため、おっかなびっくりといった感じでゆっくりと発車する。 発車してしまうと車内に煙が入ってくることもなく、SLが牽引しているんだと意識することはあまりない。 そこで、客車のほうをじっくり観察する。車両はどれも同じオハ35という形式なのだが、内装が合成樹脂の板などを用いて近代化されている車両と、 原型の木製のままのものとがあった。また、大井川鉄道のSLといえば、 ハーモニカを吹くなど独特のサービスを行う車内販売員が乗務していることで知られるが、後方の車両の団体客のほうに行ってしまったのか、 私の席には回ってこなかった。
 やがて、列車は家山に到着する。ここで10分停車するというので、機関車を見に行ってみる。 この列車はSLに客車6両、そして最後尾に補助の電気機関車という大井川鉄道にしては長大な編成で、 先頭部のSLがホームからはみ出してしまっている。これは新金谷など、他の駅でも見られた。 折角のSLなので、停車中にSLをバックに記念撮影をしたいというお客さんも多いと思う。頭端式の千頭駅では撮れるはずだが、 他の駅でもホームを延長するなど、写真が撮りやすいように何とか対策できないものだろうか。
 家山を出ると、あとは先ほど見た大井川の流れを再びのんびりと眺め、新金谷に到着。


川根温泉笹間渡の駅舎。砂利敷きの駅前広場がレトロ感を増幅させる。駅にはカフェが入居している。


SLを背面から眺める。平日にふらりとSL列車に乗れるのもいまや日本では大井川鉄道だけだろう。


旧型客車の古めかしい扉はいまだ手動で、走行中に開けないよう注意書きがされている。


客車同士の連結面を見ると、車体が若干すぼまっているのが分かる。戦前製の客車にのみ見られる特徴だ。


車内はニス塗りの木目そのままで、タイムスリップしたかのよう。


先頭の客車の様子。よく見るとSLの背面に設置されたナンバープレートが見える。


車内の洗面台もほぼ原形のままだが、さすがに使用はできないようだった。

新金谷15:30発〜金谷15:33着 大井川鉄道

金谷〜静岡〜新横浜

 新金谷では、次の金谷行きまで20分ほど待たねばならないことになっている。 ところが、実際に新金谷で降りてみると、3分待ちで金谷行きの列車があるという。 放送では臨時電車だと言っていたが、車内の一角に新聞が大量に積まれていたので、新聞輸送関連の臨時列車なのかもしれない。 なお、この列車に乗ったのは私一人で、他の客はみな新金谷で降りてしまったようだ。この利用実態を見ると、近年、SL列車が新金谷で打ち切りになり、 金谷まで行かなくなってしまったのも頷ける。
 金谷へ戻り、あとは行きと同じく東海道線と新幹線を乗り継いで帰った。