関東の盲腸線

 1月20日、4月10日、9月10日。これらの日が近づくと、鉄道ファンの何割かは頭を悩ますことになる。 先に挙げた日は、青春18きっぷの期限が切れる日なのである。 この日を境に、18きっぷはたとえ効力が何回分か残っていても紙屑と化すのだ。 そこで、余った18きっぷをどう消費するかで悩むことになる。
 この年の冬も、18きっぷが一回分余ってしまい、どう処理しようかと思案していた。 遠出するのも面倒なので、首都圏で未乗のまま残っている烏山線、南武支線、鶴見線に乗りに行くことにした。 烏山線は東京より随分北、南武支線・鶴見線は東京の南にあるので脈略はまるでないが、 北から南への移動の際は運転を開始したばかりの湘南新宿ラインに乗ることにした。

目次

2002/1/18

■ 宝積寺〜烏山

 まずは、朝のラッシュを過ぎた宇都宮線の列車で北を目指す。 宇都宮で黒磯行きに乗り換え、2駅目の宝積寺で下車する。 ここが烏山線の起点だが、駅の規模は大きくなくごく普通の郊外駅といった風情である。
 烏山線の列車は、朝夕の宇都宮直通便を除きここ宝積寺が始発である。 早速烏山線乗り場に行き、専用のキハ40に乗ろうとすると、入口付近の車体に七福神のイラストが描いてある。 烏山線は宝積寺を除くと駅が7つあり、沿線には「大金」など縁起のいい駅名が多いため、 七福神のキャラクターを各駅に割り振っているらしい。
 車内に入ると、座席は全てロングシートになっていた。路線も短いし、朝夕は学生で混みそうなのでまあ妥当な改造だろう。 ちなみに乗車時は昼過ぎとあって空いていた。
 宝積寺を発車し、仁井田までは一面の田んぼの間を進む。仁井田を出ると、 いきなり雑木林の間をぐねぐね曲がるように進む。このあたりの地形は、 丘陵地を平行に流れる何本もの河川が削ったような格好となっているため、 林と田んぼが交互に現れる。
 そんな所をしばらく走り、列車は大金に到着。ここは烏山線で唯一の交換可能駅で、列車交換を行う。 その後も似たような地形のところを進みつつ、滝という駅に到着した。 駅名が駅名だけに、本当に滝があるのかななどと思っていると、 滝駅をでてしばらくした所で本当に滝が見えた。高さが10mほどはある結構立派な滝だった。 列車から滝が見えるというのはあまり記憶になく、結構珍しいことなのではないかと思う。
 滝を過ぎると、列車は180度近くカーブして終点の烏山に到着。 いかにも地方の停車場、といった風情の渋い駅舎が出迎えてくれた。 那珂川沿いにある街だが、駅から川は見えない。

■ 烏山〜宝積寺〜宇都宮〜新川崎〜鹿島田〜尻手

 烏山から、宝積寺を経て宇都宮に戻る。 ここからは、2001年12月に走り始めたばかりの湘南新宿ラインで一気に神奈川県を目指す。 車両はデビューして間もないE231系だ。新しいものの、やや座席が硬い。 そんな車両だが、列車は文句なく空いていて、しかも途中の小金井で5両を増結したため、 端の方の車両は本当にがらがらだった。大宮を過ぎるとさすがに客が増えたが、 落ち着いた状態で新宿に到着。
 新宿から恵比寿までは以前から埼京線が走っていたので乗ったことがあるが、 恵比寿からはいよいよ「未知の領域」に入る。これから通るところは、乗りつぶしのルールからすると乗車済みの路線なのだが、 線路としては既存の路線からは独立しているので、初乗りのような気分になる。
 まず、山手貨物線を南下し、大崎駅の脇を通過。 将来的には山手貨物線にもホームができるはずだが、今は素通りする。大崎を過ぎると、 検査中の車両が停まる大井工場の脇をのろのろと通過。 この線路は、山手貨物線と横須賀線を短絡する支線で、今までは一部の特急や臨時列車しか通らなかった。 そんな訳でここを通過するのは初めてである。興味津々で車窓を見ていると、やがて横須賀線と合流し、 何事もないかのように西大井駅に到着した。
 次の新川崎駅で下車し、駅前を歩く。この新川崎は、路線図で見ると他線との連絡が一切ない駅のように見えるが、 実は南武線の鹿島田駅に程近い。双方の駅に道順が書いてあるため、乗り換えは容易だ。 鹿島田から南武線に乗り、尻手へ行く。

■ 尻手〜浜川崎

 尻手駅は川崎から南武線に乗って最初の駅だが、ここから南武線の支線が分岐している。 この支線は東海道線を無視して南下し、鶴見線の浜川崎駅に向かっている。 どちらかというと川崎の港湾地帯と貨物をやり取りするための路線で、乗客は少ない。 そのため、首都圏の路線ながら昼間は2両編成の電車が30分に一本ほど行き交うだけとなっている。
 そのため、次の列車まで尻手駅でしばらく待たされる。ようやくやってきた列車は、101系の2連。 国鉄の新性能電車の元祖ともいえる101系だが、この南武支線の車両が今や唯一の生き残りである。 より新しい103系の廃車が出始める中、今まで残っているのは奇跡に近いといえる。
 国鉄の新性能電車は、2M方式といって2両の車両にモーター等の走行機器を分けて配置する方式を取っていた。 そのため、2連を組むには両方の車両がモーターと運転台を備えていないといけない。 が、101系の後継にあたる103系ではそのようなモデルの車両は製造されなかったため、 2連を組むには中間車に運転台を付けるなどの改造が必要になる。(JR西日本にはそういう改造を行った車両が存在する) それが面倒なので、いまだに古い101系を残しているのだろう。
 そんな貴重な101系に乗る。昼下がりの中途半端な時間に工場地帯に行く人など少なく、 車内は空いている。尻手を発車すると、単線の線路をゆっくりと進む。 東海道線の線路をまたぎ、八丁畷に到着。ここは京急の駅がJRの線路の下にあり、 JRのホームが京急の跨線橋を兼ねているという変り種の駅だ。
 八丁畷を出ると、右から東海道貨物線の立派な複線が合流してくる。 しばらく併走した後、ポイントをいくつか渡る。貨物線に合流したところで川崎新町に停車。 短くて幅の狭いホームが2面あるだけの小さな駅で、まるでローカル線の小駅のようだ。
 川崎新町を出て、さらにいくつかのポイントをゆっくりと渡って東海道貨物線を横断する。 ここでは旅客列車より貨物の方が優先だ、といわんばかりの配線だ。 最後は、貨物線の脇に作られた行き止まりのホームにちょこんと停車する。ここが終点の浜川崎だ。


南武支線で最後の活躍を見せる101系。

■ 浜川崎〜扇町

 浜川崎には南武支線と鶴見線の2路線が乗り入れるが、これらの路線は元の経営母体が異なる兼ね合いで、 改札口が今も別々である。そのため、いわゆる「大回り乗車」でこの駅を通過する時は、 必ず有人改札を通る必要があり、いわば「関所」のような存在だった。 ただし、今ではどちらの駅も無人駅となっている。
 無人の通路を通って、鶴見線に乗り換える。まずは鶴見線の末端部、浜川崎から扇町までの区間に乗る。 鶴見線の線路は単線であるが、周囲には貨物線などが複数走っており、とても賑やかだ。 周囲は工場ばかりで、何だか貨車に乗っているかのような気分になる。
 しばらく走ると、程なく扇町に到着。旅客線はここでおしまいだが、貨物線はまだまだ先に続いており、 終着駅という感じはあまりしない。

■ 扇町〜浅野

 扇町から、乗ってきた列車で引き返す。相変わらず工場街を進み、浅野に到着。 浅野は、鶴見線の本線と海芝浦に向かう支線が別れる駅だ。線路は駅手前で分岐しており、 駅のホームは扇のような形をしている。阪急の石橋駅や、徳島の池谷駅のようなホーム配置である。
 少し待ち時間があるので、駅を観察する。ホームとホームの間は構内踏切でつながっている。 駅周辺は工場が多いが、駅には誰一人客がいない。この駅から帰宅する人はいないのだろうか。 古びた駅舎やホームの屋根が、夕暮れの中で何とも不気味に写る。

■ 浅野〜海芝浦

 しばらく待ち、やってきた列車に乗り込む。今度の列車も含め、 鶴見線の列車はいずれも103系3連で運転される。 よくよく観察すると、窓枠の部分が丸くなっている。これは103系でも古い車両の特徴だ。 先程も書いたように、国鉄通勤型は2M方式を基本としているため、 3連を組もうとするとモーターと運転台が両方ついた車両が最低でも1両必要となる。 そのような車両は、103系が製造を開始された最初の方に京浜東北線などに投入されたのみで、 後期は作られていない。従って、おのずと古い車両が多くなる。
 浅野を出て、列車は運河沿いを走る。反対側には巨大な工場が広がる。 運河沿いを走り続け、海芝浦に到着。

■ 海芝浦〜鶴見小野

 海芝浦は、ホームの向こうがすぐに海というすごい立地と、 改札を出ると東芝の工場に入ってしまうというユニークな構造で、最近広く知られるようになった。 そんな駅だが、暗くて海は見えないし、ホームに電車が着くや否や続々と通勤帰りの客が乗ってきた。 席を確保するため、電車にそのまま留まることにした。
 海芝浦を出た列車は、浅野から鶴見線の本線に入る。 この後、大川支線に乗るつもりなのだが、大川支線の電車が来るまでまだ時間がある。 あの寂しい浅野駅で待つのも何なので、少し鶴見方にある鶴見小野駅で折り返すことにした。
 鶴見小野駅は、駅前に商店や住宅街が広がるごく普通の駅だ。 だが、無機質な工場地帯ばかりを見てきた目には何だか新鮮に映る。

■ 鶴見小野〜大川

 鶴見小野から大川行きに乗る。大川支線は鶴見線の中でも非常に本数が少なく、 朝夕以外は列車が走らない。土日などは一日3本しか列車が来ない有様で、和田岬支線を思い出させる。
 そんな貴重な列車で、大川を目指す。浅野、安善と過ぎ、武蔵白石駅の手前で本線と分岐する。 ただし、今度は武蔵白石には停車せず、そのまま通り過ぎる。 大川支線に大型の103系が入れるように改造した際、列車が停まれなくなったそうだ。
 日が暮れて真っ暗な工場街を進み、終点の大川に到着。 ここでも通勤客が続々と乗ってきて、車内から出られなかった。

■ 大川〜鶴見

 乗ってきた列車で鶴見へと折り返す。 終点の鶴見駅は高架で、京浜東北線ホームとの間に中間改札がある。 鶴見線の各駅は基本的に無人で改札もないため、乗降客は基本的にここ鶴見で料金を支払う。 ただし、続々と改札を通り抜ける通勤客はほとんどが定期を利用しており、 18きっぷで改札を通り抜けるのは自分ひとりだけだった。

乗車記録

今回の乗車キロ数

路線名乗車区間キロ数
烏山線宝積寺〜烏山20.4
南武線尻手〜浜川崎4.1
鶴見線鶴見〜扇町、浅野〜海芝浦、武蔵白石〜大川9.7
合計34.2

乗りつぶし状況

 総キロ数走破キロ数走破率総路線数走破路線数路線走破率
旅行前19860.911059.355.68%1716739.18%
旅行後19860.911093.555.86%1717040.94%