第3セクター線の定義と乗りつぶし状況

 JR乗りつぶしに続く目標として始めた「第三セクター線乗りつぶし」。 こちらも、JRの乗りつぶしと同様、公式なルールなど何もない。 乗りつぶしを始めるに当たって、まずは「第三セクター線」の定義を決める必要がある。 ところが、その範囲が明確に定まっている JR線とは違い、「第三セクター線」は解釈次第によって対象路線が大幅に変動するため、 ルール決めは必須といえる。

なぜ「第三セクター線」?

 2005年元日にJRの全路線を一応完乗し(越美北線が部分運休中のためやや微妙な所だが)、 その後しばらくは鉄道旅行自体から遠ざかっていた。 しかし、鉄道そのものに対する興味が無くなった訳ではなく、しばらくするとまたどこかに出かけたくなった。
 しかし、どこかに行くためには「目的」が必要である。 特に、鉄道にばかり乗り観光もろくにしないような旅行においてはなおさらだ。 そこで、乗りに行くターゲットとなる路線を選ぶ際に、2つの基準を設けることにした。 1つは、JR完乗の際十分に車窓を堪能できなかった路線。 行程の都合上、どうしても夜間に通過せざるを得なかった路線や、 夜行明けに乗車するなどして車内で居眠りしてしまい車窓を見逃した路線が全国に点在している。 本来は車窓を楽しむために鉄道旅行をしているのであり、そんな路線が存在すること自体本末転倒も甚だしいが、 当時はただひたすら完乗を目指していたので仕方ない。
 もう1つのターゲットは、今まで乗車してこなかった私鉄だ。私鉄にも風光明媚な路線、面白い路線は数多くある。 JRの次は私鉄の乗りつぶしをしてみるというは自然な流れだし、実際そういう人は数多い。
 ただ、私鉄にはあまり興味を引かれない路線も数多いのも事実だ。 東京や大阪の近郊には、私鉄が網のように路線を張り巡らせている。 何の変哲も無い住宅街を走る都市近郊の私鉄を乗りつぶす気は正直起きない。 それでも外が見えればまだましな方で、大都市には地下鉄の路線も数多くあり、 これを乗りつぶすのは苦痛といわざるを得ない。
 そこで、対象路線を私鉄の中でも、旧国鉄の廃止路線を継承した鉄道に限定することにした。 鉄道ファンの間で一般に「第三セクター線」と呼ばれる路線である。
 「第三セクター線」に対象限定する理由は2つある。 1つは、JRの路線並みの旅情があること。旧国鉄の路線を継承している以上これは当然といえる。
 もうひとつの理由は、国鉄時代に国鉄全線を完乗した人々の苦労をしのびたいというものである。 2005年1月現在でのJR路線の総キロ数は19861kmであるが、 国鉄時代の1980年3月時点では総キロ数は20809.7kmもあった。(宮脇俊三著「時刻表20000km」による) しかも、この時点では東北・上越新幹線や石勝線・埼京線・京葉線は開通していない。 これらの路線の営業キロは合わせて約1000kmに及ぶ。すなわち、2000km程のローカル線が、 1980年代の国鉄改革の課程で廃止されたことになる。
 このように、国鉄の不採算路線が数多く廃止され、その一部が「第三セクター線」となったのであるが、 このとき廃止された路線はいずれも本数の少ないローカル線であり、 しかも、東北・上越新幹線のような便利な路線は未開通である。 国鉄完乗は今のJR線完乗よりもはるかに大変なことだったことが想像できる。 廃止された路線にはもう乗れないが、第三セクター線として生き残った路線に乗車することにより、 当時の苦労を少しではあるものの味わうことができるだろう。

「第三セクター線」って?

 そもそも、「第三セクター」とは何だろうか? 一般的な定義は、「国や地方公共団体と民間が合同で出資・経営する企業」だ。
 では、鉄道の世界ではどうなるだろう。先程の定義に忠実に従うと、 「国や地方公共団体と民間が合同で出資・経営する鉄道」ということになる。 この定義に当てはまる旅客鉄道会社としては、以下のものが存在する。
 (1) 旧国鉄の特定地方交通線を引き継いだもの(例:下表の路線のほとんど)
 (2) 鉄建公団の建設線を引き継いだもの(例:北越急行、智頭急行、井原鉄道、三陸鉄道や土佐くろしお鉄道の一部など)
 (3) JRの廃止線を引き継いだもの(例:IGRいわて銀河鉄道、青い森鉄道、しなの鉄道、のと鉄道、肥薩おれんじ鉄道)
 (4) 私鉄の廃止線を引き継いだもの(例:えちぜん鉄道、万葉線など)
 (5) 近年作られた都市近郊新線(例:埼玉高速鉄道・東葉高速鉄道・みなとみらい線など多数)
 この5つのうち、おそらく最も会社数が多いのは(5)だ。しかし、 今回第三セクター乗りつぶしを始めた理由は、「JR線を完乗した今、今度は元国鉄の路線の完乗を果たし、 かつて国鉄時代に全線完乗を果たした人の苦労を偲ぶ」というものである。 従って、旅情も何も無い(5)はもちろん、(4)も完乗対象から除いて良いだろう。 (2)も微妙な所だが、国鉄がもう少し長く続いていたら(2)の路線も国鉄の路線として間違いなく開業していただろうから、 対象に加えることにする。
 というわけで、(1)(2)(3)を乗車対象とすることにする。

乗車対象路線一覧

 上記条件に当てはまる路線は以下の通りとなる。

会社名区間完乗日時備考
青い森鉄道目時〜八戸2000/2/24JR時代に完乗
IGRいわて銀河鉄道盛岡〜目時2000/2/24JR時代に完乗
秋田内陸縦貫鉄道鷹巣〜角館2006/4/29
由利高原鉄道羽後本庄〜矢島2006/4/28
三陸鉄道盛〜釜石、宮古〜久慈2002/8/8
山形鉄道赤湯〜荒砥2006/10/29
阿武隈急行槻木〜福島2006/10/29
会津鉄道西若松〜会津高原2006/8/6
野岩鉄道新藤原〜会津高原2006/8/6
わたらせ渓谷鐵道桐生〜間藤2006/12/22
真岡鐵道下館〜茂木2006/12/22
鹿島臨海鉄道水戸〜鹿島サッカースタジアム2006/10/9
いすみ鉄道大原〜上総中野2004/6/23
北越急行犀潟〜六日町2002/10/5
しなの鉄道軽井沢〜篠ノ井1997/9JR時代に完乗
天竜浜名湖鉄道掛川〜新所原2004/8/12
神岡鉄道猪谷〜奥飛騨温泉口廃止のため乗車できず
樽見鉄道大垣〜樽見2004/8/12
明知鉄道恵那〜明智2005/8/17
長良川鉄道美濃太田〜北濃2006/10/14
愛知環状鉄道岡崎〜高蔵寺2004/8/12
東海交通事業枇杷島〜勝川2004/8/12
伊勢鉄道河原田〜津2005/8/18
のと鉄道和倉温泉〜穴水1994/12
北近畿タンゴ鉄道西舞鶴〜豊岡、福知山〜宮津2006/8/10
信楽高原鐵道貴生川〜信楽2006/10/14
北条鉄道粟生〜北条町2005/8/12
三木鉄道厄神〜三木2005/8/12
若桜鉄道郡家〜若桜2006/8/10
智頭急行上郡〜智頭2003/12/30
井原鉄道清音〜神辺2006/8/11
錦川鉄道川西〜錦町2006/8/13
阿佐海岸鉄道海部〜甲浦2003/4/28
土佐くろしお鉄道窪川〜宿毛、後免〜奈半利2006/8/11
平成筑豊鉄道直方〜行橋、金田〜田川後藤寺2004/8/18
甘木鉄道基山〜甘木2004/8/18
松浦鉄道有田〜佐世保2004/8/19
南阿蘇鉄道立野〜高森2004/8/20
高千穂鉄道延岡〜高千穂2004/8/20乗車後に廃止
くま川鉄道人吉〜湯前2004/8/20
肥薩おれんじ鉄道八代〜川内2003/3/11JR時代に完乗

 なお、気付く人は稀だと思うが、上記のリストの中にはJR富山港線を継承した富山ライトレールは含まれていない。 富山ライトレールを乗車対象から除いた理由は、継承後の輸送形態がLRTという国鉄・JRとは似ても似つかぬものであること、 継承後に開業した区間は国鉄・JRの構想によるものではないこと、JR時代に既に一度乗車していること、以上の3点である。