最終更新日:2021/10/10

超高速!大阪往復―ANAと近鉄のアッパークラスシートを楽しむ

 コロナ禍もようやく終息に向かい、緊急事態宣言の解除も目前に迫った2021年9月、 飛び石連休合間の平日に暇ができた。せっかくなので感染に気を使いつつ、久々に遠くに出かけることにした。 色々行きたい場所はあるが、やはり一番はふるさとの関西だ。もう2年近くも訪問できていないというのは異例のことであるし、 阪急はじめ関西の鉄道も長らくご無沙汰である。時間の都合上、今回は関西での滞在時間がほとんど取れない強行軍になってしまったが、 感染が落ち着けばまたゆっくり訪問することにしようと思う。
 関西へ行く手段は通常ならば新幹線を選ぶところだが、前々から気になる乗り物がある。 このところのコロナ禍により国際線の需要が急減し、JALやANAでは国際線用の機体が余剰になっていることから、 これを国内の幹線(羽田〜伊丹、福岡、新千歳など)に投入するケースが増えている。 普通席が大半を占める国内線機材と比べ、国際線機材はアッパークラスの座席の割合が高く、しかも国内向けのアッパークラスに比べ快適性も高い。 国際線だと高嶺の花であるビジネスクラスのシートにも格安で乗れるということで、航空ファンの間で密かに話題になっているらしい。 そこで、今回はこれを狙ってANAで大阪へと飛んだ。
 また、近鉄が看板の名阪特急に投入した新型車両「ひのとり」のプレミアム車両の座席も、かつてない豪華なシートということで話題になっている。 そこで大阪からの帰路に名古屋まで乗車してみることにした。

 なお、「安全安心な旅」を実現するため(以下同文)

目次

2021/9/24

横浜8:44発〜京急蒲田8:58着 京急本線

京急蒲田8:59発〜羽田空港第3ターミナル9:07着 京急空港線

 朝ラッシュの終わりつつある横浜駅へとやってきた。 まずは京急で羽田空港へと向かう。ホームで待つと、12両編成の特急がやってきた。 ラッシュ時ながら意外にも列車は空いていて、先頭車の一番前のロングシートに運よく座ることができた。 ここで久々に京急の車窓を眺める。神奈川新町駅手前で各停が前につかえてしばらく停止した以外は、 快調な走りで一気に蒲田へ。
 蒲田では、向かいのホームに羽田空港行き特急が発車を待っていた。この列車は横浜方面からの直通列車で、 蒲田で後続の品川方面行特急と接続してから発車するらしい。 こちらの列車も空いていた。見た感じ、純粋に空港を利用する旅行客はあまり見られず、航空関連の労働者の方が多い印象だ。 途中の大鳥居や穴守稲荷で少しずつ乗客を降ろし、長いトンネルを通過して羽田空港第3ターミナルに到着。 時間があるので、ここで一旦下車する。
 羽田空港第3ターミナルはかつて「国際線ターミナル」という名称だったが、 2020年春に第2ターミナルにも国際線施設ができたことから今の名前に変わった(その様子は後述)。 改名後初となる訪問だったが、出発ロビーには意外にも人がいる。こんな時期ゆえもっと閑散としているのかと思っていたので、意外である。 出発案内板を見ても欠航は半数ほどで、思った以上に世界各地へと飛行機が飛んでいることが分かる。 構内を見回すと、案外家族連れが多い。10月の人事異動シーズンに合わせて、一家で海外に赴任する人が多いのだろうか。 また、ガルーダインドネシア航空のカウンターの前には、「技能実習生」の腕章をつけた外国人が100人以上いた。 コロナ禍の裏で、こういった人の移動が粛々と行われているんだなと納得した。
 次に、1つ上のフロアにある飲食店や土産物店が並ぶエリアを眺める。 中国語の案内表示をドアに貼り付けた土産物店はもぬけの殻で、やはりまだまだ平常化はほど遠いんだなと感じる。


駅名改称後、初の訪問となる羽田空港第3ターミナル駅。


ターミナル内の出発案内表示。ほとんどの国際線が運休していた2020年春頃と比べて運航便も増えてきた。


ターミナル上層階の店舗には空きスペースも目立つ。この店は中国からの観光客目当てだったのだろうか。

羽田空港第3ターミナル〜羽田空港第2ターミナル 東京モノレール

 一通り観察を終え、これまた久々の乗車となる東京モノレールで第2ターミナルに向かう。 車両は見たことのない新しいタイプだった。機器の都合上、車体中央部がせり上がっているのは従来車両と変わらない。 モノレールは京急と違い地上を通るため、滑走路など空港内の様子を眺めることができる。 新整備場駅の手前でトンネルに入り、第1ターミナルを経て終点の第2ターミナルに到着。 第2ターミナルも客はちらほらといるものの、やはり従来と比べると圧倒的に人が少ない。
 さて、羽田から伊丹へはANAの「プレミアムクラス」を利用する。 これは国際線ビジネスクラスの国内版のようなもので、空港では専用の手荷物検査場やラウンジが利用でき、 機内では食事も提供されるというものだ。実はこの手の航空機のアッパークラスを利用するのは個人的に初めてである(国際線ラウンジに潜入したことはあるが)。
 まずはチェックインであるが、プレミアムクラスの客は専用のカウンターで受付が行われ、手荷物検査も専用の通路を通れる。 混雑時にはとても有難いサービスだが、この日は普通の検査場も閑古鳥が鳴く状況で、有難みはあまりなかった。 専用カウンターでうやうやしく出迎えられ、検査場へ。手荷物はほとんどなかったので一瞬でパスした。
 次に、ラウンジに行く前に構内を散策する。検査場を出て右手にしばらく歩き、70番ゲート付近へ。 ここに、ガラス張りの壁とシャッターで区切られた謎の区画がある。中には、72番・73番と書かれたゲートと、 何やら上層に向かうエスカレーター、それに真新しい椅子や机が並ぶが、人の姿はない。 ここが、第2ターミナルに新設された国際線施設らしい。 羽田空港では東京2020大会に向けて発着枠拡張が行われ、 国際線の便数が一気に増えた。そのため、従来の国際線ターミナルでは捌き切れず、ANA便を中心に一部を第2ターミナルで受け入れることになった。 だが、コロナ禍で国際線の便数が激減、この施設はほとんど使われず放置されているそうだ。
 元の場所に戻り、今度はラウンジに向かう。仰々しい自動ドアの中に入ると、上層に向かうエスカレーターがあった。 これを上がったところにラウンジの受付がある。ちなみに更に上の階は、上級会員専用のSuiteラウンジになっているらしい。 中に入ると、椅子やテーブルが並ぶ広い空間となっていた。人はあまりいない。 国際線ラウンジと違って食事はなく(おかきが一種類だけあったが)、ドリンクバーのみ用意されていた。 コーヒー・紅茶などのありきたりなものだけでなく、トマトジュースや青汁など一風変わったものもあった。 中にはビールサーバーもあったが、コロナ禍のため提供を停止しているそうで、稼働していなかった。 普段は焼酎などの酒類もあるそうだが、これもなかった(焼酎を置いていたであろうカウンターは空っぽだった)。 さすがに朝っぱらから酒を飲む気はしないので個人的には気にはならないが、楽しみにしている人からするとがっかりなんだろうなと思う。 カウンターに座り、コーヒーを何杯か飲んで出発を待つ。


久々に乗った東京モノレール。いつの間にか車両も塗装も代替わりが進んでいた。


第2ターミナルの出発ロビー。「圧縮効果」と呼ばれる現象でぱっと見人が多そうに見えるが、通常と比べると人はかなり少ない。


第2ターミナルのエアサイドには、ガラスで区切られた謎のスペースが。


ガラス壁の向こうの様子。国際線専用の72、73番ゲートが見える。


手荷物検査場付近にあるラウンジ入口。ドアの向こうにエスカレータがあり、これを登るとラウンジにたどり着く。


ラウンジの内部はかなり広いが、利用者が相当少ないためか奥の方は封鎖されていた。


ラウンジ内の出発案内表示。国内線の欠航便は少ない。搭乗口までの距離や所要時間の表示があるともっと便利かも。

羽田空港11:00発〜伊丹空港12:05着 ANA21便

 出発15分ほど前にラウンジを出て、ゲートに向かう。 もう普通席の搭乗はあらかた終わっていたようで、ゲート付近にはあまり人は残っていなかった。 今回乗るのはB787-800であるが、同型の国内線機材にはプレミアムシートが12席しかないところ、 国際線機材には42席もついている。その割に搭乗率は6割程度で、意外に盛況である。私の隣の席にも客がいた。 てっきり国際線機材狙いの航空マニアやマイル修行僧が多いのかと思いきや、至って普通のビジネスマンらしき人が多い。 平日日中に、これほど需要があるとは意外である。
 肝心の座席は「ビジネスクレイドル」というタイプのものであるが、乗り込むとすぐに出発体制に入ってしまったこともあり写真は撮れなかったので、 ANAの公式サイトを参照して頂きたい。 座ってみた感想としては、まずシートピッチの広さに驚かされる。前の座席の背面にモニターが付いているのだが、これを操作するのが一苦労で、 身体を乗り出して手を伸ばさないと届かない。そのモニターだが、サイズは普通席と大して変わらず、シートから遠い分むしろ小さく見える。 コンテンツも国際線運用時とは違うようで、映画の種類は少なく、麻雀やテトリスのようなミニゲームもできないようだった。 その他、シートの横には大きめのディバイダーが付いており、隣席の客の顔は見えないようになっているほか、ひじ掛けも干渉しないようになっていて、 体感としてはほぼ個室に近かった。リクライニングはボタン式になっており、フットレストも連動して動く仕組みになっている。 また、モニタの下には(今回は使わなかったが)大柄のヘッドフォンと使い捨てのスリッパが差し込まれていた。 一方で、これまで当たり前のように見ていた機内誌の類は感染対策のためなくなっていた。 そういえば、席に着くなりCAさんが消毒用のアルコールシートを配布しにきた(希望者のみ)。 マスク着用のお願いも頻繁になされ、なかなか物々しい。
 11時ちょうどにドアがクローズし、タラップが外れてプッシュバックが始まる。 この日は空港外れのD滑走路から飛び立つようで、出発地点まで空港構内を延々とタキシングする。 11時15分、ようやく離陸。この日は天気が良く、アクアライン上空を飛び越えて房総半島、三浦半島上空を旋回する様子がよく分かる。
 シートベルトサインが消えたところで、食事のサービスが始まる。機内での食事の配布は結構時間がかかるものだが、 羽田〜伊丹便はフライト時間が短く、水平飛行をする時間は30分ほどしかない。 その上国際線機材は席数が多いため、食事が配られる順番の遅い後方席だと十分な時間がなく、食事途中で時間切れという憂き目にあう可能性もあるらしい。 そこで、今回は前から2列目の席を確保しておいた。期待通り速めに食事と飲み物 (小瓶入りのスパークリングワイン:緊急事態中なのだが機内での酒提供は普通に行われていた)を受け取り、急いで写真を撮って食べ始める。 食べ始めた時点で、既に伊豆半島上空まで来ている。お品書きと内容物を照合するのもそこそこに急いで食べ、飲む。 ANAのプレミアムクラスの食事は、新幹線グランクラスの食事と同じく「軽食」レベルであることが多いらしいのだが、 羽田発着の主要路線では結構本格的な食事が出るらしい。(JALファーストクラスに対抗するためだとか…) 今回もそこそこ豪華でボリュームのある内容だった。
 食べ終わると、もうすでに伊勢湾に差し掛かっていた。そこで、最後にリクライニングを全開まで倒してみた。 水平に近いぐらい(美容室のシャンプー台くらい?)倒れ、機内とは思えないぐらいだ。 しかし、完全な水平ではなく、シートもやや硬めであるため、尻にやや加重がかかる点が気になった。 寝返りが打てる訳でもないため、この姿勢で10時間近く過ごすとなるとなかなかしんどいのではないか、という気がする。 このタイプの機材は現在主に中国・フィリピンなどの近距離国際線に投入されているらしいので、そのくらいの距離ならば十分快適だと思う。
 ちなみに、JALでは一部路線にフルフラットのシートを装備した機材が投入されているらしい。(フルフラットシートはクラスJ扱い) そちらにも是非乗ってみたいのだが、かなり人気があるようで座席の確保が大変らしい。
 フルフラットを満喫する暇もなく、飛行機は着陸態勢に入った。眼下には奈良盆地、そして大阪平野が見えてきた。 あべのハルカスや大阪城、梅田のビル街や新大阪駅と、懐かしい光景が目に入ってくる。最後の方は庄内駅付近を走る阪急宝塚線の車両も見えた。 12時5分ごろ、着陸。今度はタキシングは短く、あっさり空港ターミナルに横付けされた。 機体最前方ということで早々に外に出られ(これもプレミアムシートの役得である)、ターミナルビルに出た時点で12時10分過ぎだったか。


出発ゲート付近から撮影した、今回搭乗したB787。ターミナルビルの構造上、どうしても窓枠が映り込んでしまう。


座席の前方にはモニタが付いているが、シートのサイズに比べて画面のサイズは小さめ。


プレミアムクラスで提供された昼食。なかなかボリュームがあり、短時間で食べ切るのは結構大変。


羽田を飛び立って小一時間、早くも大阪のビル街が見えてきた。

大阪空港12:23発〜蛍池12:25着 大阪モノレール

蛍池12:30発〜大阪梅田12:45着 阪急宝塚線

西梅田〜なんば 大阪メトロ四つ橋線

 空港内の土産物店で少し買い物をした後、モノレールの乗り場へ向かう。 発車を待っていたモノレール(がらがらだった)に一駅乗り、蛍池へ。ここから阪急宝塚線で梅田へ向かう。 やってきたのは5100系の急行大阪梅田行き。5100系は阪急でも残りわずかとなったツーハンドル(マスコンとブレーキが別ハンドルとなっている)車両である。 新しい9000系や1000系もよいが、古くから居る顔なじみの車両に乗れるのはうれしいものだ。
 豊中を発車すると、十三までノンストップで走る。阪急宝塚線というと「遅い」というイメージが真っ先に浮かぶのだが、 久しぶりに乗るとなかなかの走りで、カーブによる徐行区間以外は常時100km/hを伺うような飛ばしっぷりだった。 最近、スピードの遅い関東のJRや私鉄にばかり乗っていたせいだろうか、妙に早く感じられた。
 あっという間に十三に到着。十三駅ではホームドアが設置され、発車メロディのようなものが鳴るようになったのが目新しい。 もっとも、このホームドアは車両側の操作とは連動していないらしく、車掌さんが車両のドアを閉じた後、手動でホームドアも操作する必要があるようだった。 十三からは京都線や神戸線と合流して淀川を渡る。旅客線化が進む梅田貨物線の上を超えると、大阪梅田はもうすぐだ。
 少し時間があるので、大阪梅田駅の構内で阪急の車両を観察する。 まず、隣のホームにはもう1本5100系が停車している。5100系の8両編成は現在4本しかいないらしいので、 こうやって大阪梅田で並ぶのはかなり珍しいはずだ。しかも、片方の編成は5100系の登場50周年を記念したヘッドマークを装着している。 そして、車両の側面に目を向けると、車体の方の部分に車両番号を表示するようになったのが目新しい。 十三駅などホームドアを備える駅でも番号を確認できるようにするためだろうか。
 次に京都線の車両を見てみる。こちらは2019年に河原町駅が京都河原町駅に改称され、行先表示も「京都河原町」に変わったのが目新しい。 同じタイミングで梅田駅も大阪梅田駅に変わったのだが、変更直後に乗車した際は車両側の対応はまだほとんど行われていなかった記憶がある。 次に神戸線の乗り場に行くと、登場時の姿を再現した8000系が停車していた。 登場時にあった、正面運転台の下の飾り帯が再現されているほか、側面には今の社章が制定された際になくなった「H」マークが再現されている。 ちなみにこのHマーク、幼かった私はアルファベットだと分からず、「何のマークなんだろう」と子供心にずっと疑問だったのを覚えている。 その横には、「SDGsトレイン」なる派手なラッピングを施した1000系が停車していた。阪急阪神・東急の合同企画らしく、後日東急線でも同様の車両を見かけた。 どうでもいいが、この車両の神戸方先頭車は「1111」のゾロ目であった。
 ひとしきり車両を眺めたところで、茶屋町口から外に出て梅田の街を見て回る。 コロナ禍なので街歩きは最小限にとどめたが、思っていたよりも人手は多かった。 ヨドバシカメラの横に新しくできた商業施設であるリンクス梅田や大阪ステーションシティ、改造工事が進む阪神梅田駅周辺を見て回る。 阪神百貨店は既に新ビルの建設が終わり、10月にはグランドオープンするそうだ。 年中どこかしらで建設工事が行われている梅田界隈だが、来月にはまた大きく変貌することになりそうだ。 一方、地下の駅や食品売り場は仮設の状態で、狭苦しい密な空間となっていた。 8月、食品売り場でクラスター騒ぎが起きたのもこれが影響しているのだろう、と思った。
 歩いているうちに西梅田の方に来てしまったので、四つ橋線に乗ってなんばに向かうことにする。 四つ橋線は西梅田駅の位置が悪く、御堂筋線に比べて本数も少なく編成も短い割に空いていることが多い。 この日も軽く席が埋まる程度の乗客しかなく、空いていた。


青&ピンクの派手な塗色が目立つ大阪モノレール。


デビュー50周年記念ヘッドマークを装着した阪急5100系。


梅田駅に2本並んだ5100系。本数の減った昨今ではなかなか見られない貴重な光景だ。


最近、車両の肩部分に車両番号が表示されるようになった。


運転台同士を連結した部分には車両表示はない。5100系は編成の組み換えが激しく、片方の車両は前面表示幕あり、もう一方は前面表示幕なしのちぐはぐな編成もみられる。


神戸線1000系の「SDGsトレイン」。前面の「1111」は模様ではなく、車両番号である。


SDGsトレインの側面。大人しい車体塗装の阪急にしてはかなりド派手なラッピングがなされている。


登場時の姿を再現した8000系。デビュー30周年の記念企画とのこと。


側面には「H」マークも再現。この車両は神宝線では数少ないクロスシートを装備している。


京都線特急の9000系。行先表示が「河原町」から「京都河原町」に変わった。


しばらく来ないうちに阪神百貨店の建て替えが進捗し、立派なビルが出現した。


久々の乗車となる四つ橋線。リニューアルされた23系に乗るのも初めて。

大阪難波14:00発〜近鉄名古屋16:08着 名阪特急ひのとり

 なんばでも少し時間が余った。ふと思い立ち、地下通路を歩いて近くの金券ショップに向かう。 ここで、近鉄全線に乗車可能な株主優待券を1500円で購入。この手の株主優待券は意外と元が取りにくいものだが、 大阪難波〜近鉄名古屋間は近鉄の最長区間なので2500円近くもするため、1000円近く安く乗れる。
 駅の改札を通り、エスカレーターを降りてホームに向かう。ホームは2面3線とターミナルにしては狭苦しいもので、主に奈良線や阪神なんば線の車両が行き交っている。 そんな中、時折特急列車がやってくるが、難波駅では折り返すことができないため、隣の桜川駅に設けられた引き込み線で折り返してくる。 なので特急列車は発車ギリギリならないと到着しない。しばらく待ち、やってきた特急「ひのとり」の先頭車に乗車する。出入り口を入ってすぐのところに、 ドリップコーヒーや軽いスナックを提供するカウンターが設けられている。その横に階段があり、それを登るとプレミアム車両であった。 プレミアム車両の定員は20人ほどだが、最終的には半分ほどは埋まった。やはり座席の良さが人気を呼んでいるのか、意外と需要があるようだ。
 「ひのとり」は先頭部の運転台長さが長いため、それほど前面展望は良くないと思っていたが、意外にも眺めは良さそうだ。特に1列目の真ん中の席あたりは特に眺望がよさそうだ。 シートは先程乗ったANAのビジネスクレイドルと同じく、フルリクライニングに近いほど倒すことができる。 リクライニングは電動でできるほか、カーテンも電動スイッチで上げ下げをすることができる。シートピッチこそANAには及ばないものの、 座席は革張りで座り心地もよく、十分に対抗できるものだ。
 大阪難波を発車した電車は上本町を出ると地上に上がり、鶴橋駅に停車する。鶴橋駅の周辺には昔ながらの建物はまだまだ残っている。 鶴橋を出ると奈良線と大阪線がしばらく並走する。やがて奈良線が上にあがり、布施の駅に到着する。ここは奈良線・大阪線の2層構造になっていて、 それぞれ通過線も備えるという大掛かりな駅だ。この駅を過ぎると奈良線と大阪線は別れ、大阪線は南東に進んでいく。引き続き大阪市内の住宅街を進んでいくが、 これほどまでに高架化が進んだ区間が多いとは思わなかった。信貴線との分岐駅である河内山本を過ぎ、安堂あたりでは大和路線とすれ違う。 河内国分を過ぎるといくつかのトンネルを抜けて生駒山地をくぐり、今度は大和盆地に入る。ここでは和歌山線としばらく併走する。 和歌山線は古めかしい105系から227系へとようやく置き換えられたが、新しい車両が走っていることに違和感を覚える。
 やがて、近鉄全体を統括する工場のある五位堂を通過する。五位堂の車庫には地下鉄線で普段用いられている車両もいた。 終電装置が違うので、確か機関車で牽引してここまで運んでくると聞いた記憶がある。五位堂を過ぎてさらに進むと大和八木を通過する。 かつて新宮までの長距離バスを完走した際に最初に立ち寄った駅で、その頃から様子はあまり変わっていなさそうだ。 大和八木を過ぎてしばらくすると今度は桜井線と合流して桜井駅に至る。
 桜井からはだんだん山深くなってきて本格的な山越えとなってきた。途中の長谷寺駅などはすぐ横に険しい渓流が流れている。 渓谷沿いの急なカーブとトンネル、それにまっすぐな区間が1対1対1くらいの割合で繰り返される区間が続く。 長谷寺からしばらく走ると、眼前に伊賀盆地が見えてきた。伊賀盆地へ下る宇陀川の険しい渓流に沿って列車も一気に下っていく。 降り終わってしばらく走ったところに名張の駅がある。ここは運転上の重要な役で、いくつかの列車が停車しているほか、引込線も整備されている。 名張から伊賀盆地をしばらく進んだ先にあるのは伊賀神戸駅で、ここはかつて近鉄に所属していた伊賀鉄道との分岐駅である。
 さらに進むと青山町に到着する。ここら辺まで来ると長かった伊賀盆地が尽きてきて、いよいよ青山峠越えへと差し掛かる。山深くにある西青山駅を通過すると、 長い長い新青山トンネルに入る。その長さは実に5600mにもなり、大手私鉄では第一位だという。通過時間はかなり長く5分ぐらいはかかっただろうか。 トンネルを抜けると東青山駅があり、そこを過ぎると今度は一転して伊勢湾沿いへと坂を下っていく。 榊原温泉口を過ぎ坂を転がるように落ちると、名松線と並走する区間がある。こちらから名松線の線路を確かめようとしたが、向こうはか細い単線なので結局よくわからなかった。
 そうこうしているうちに列車は伊勢中川駅の手前に到着する。伊勢中川駅は大阪・名古屋方面から伊勢方面へと列車が乗り入れる駅構造となっているため、 大阪から名古屋に向かう直通列車は伊勢中川駅には入らず、構外にある短絡線を通過する。 実は私はこの短絡線に乗るの初めてだったのだが、意外と伊勢中川の駅から近く、駅の様子がよく見えた。 カーブをゆっくりと通過するといよいよ名古屋線に入る。
 名古屋線に入ると基本的に地形は平坦なのでそこまで見るべきものはない。 しばらく走り津の駅に到着する。ここでは若干の乗り降りがあった。発車してしばらくしたところで、踏切で異常検知したとのことで列車がしばらく止まってしまった。 この後名古屋ではわずか6分の乗り換えを予定しているので、若干不安になる。結局、4分ほど少々の遅れで発車したとのこと。ここから「ひのとり」の回復運転に期待したい。
 津を出ると、やはり回復運転を心がけているのか、これまでより心持ちスピードが速くなった気がする。 名古屋線内は一部カーブがあるものの基本的にはまっすぐな線路は続くので、高速運転が続く。 スマホの時刻表(退避列車の時刻から、この列車が本来通過すべき時刻を推測できる)や時計と首ったけになってるうちに、 列車は四日市を通過した。この辺りでどうやらほぼ平常ダイヤに復活したようでほっとした。四日市からしばらくすると近鉄冨田という駅がある。 ここは三岐鉄道との分岐駅なのだが、三岐鉄道は近鉄・JR両方に直通線路を持つため、その線形は非常に複雑である。これまで飛ばしてきた特急もここばかりは徐行を強いられた。
 さらに進むと桑名の駅に到着する。桑名駅は元近鉄の北勢鉄道と養老鉄道が分岐する駅である。 かつてはそれらの間に改札も何もなかったのだが、今は近鉄と養老鉄道の間には柵ができ、改札を通らなければ行き来ができないようになっていた。 桑名を過ぎるといよいよ木曽三川を渡って愛知県に入る。途中の長島駅からは遠くのナガシマスパーランドの大きな建物が見えた。 木曽三川を過ぎるといよいよ愛知県で、あとは普通の住宅街を快走する。最後はJRの名古屋工場の脇をすり抜けて地下ホームに到着。 2時間ほどの旅であったが座席のスペックは十二分すぎる程よく、まだまだ乗り続けたいほどだった。


近鉄奈良線には、昔ながらの車体に抵抗制御を備えた古参車両がまだまだ健在。


入線してきた「ひのとり」。ちょっと塗装がメタリックになっているのか、何とも言えない複雑なカラーリングである。


入口を入ってすぐのデッキ部分に、コーヒーメーカーとお菓子の自販機がある。車内販売はないので、車内で調達できる飲食物はこれのみとなる。


プレミアム車両の1人掛けのシート。革張りのなかなか立派なもので、座り心地もすばらしい。


こちらは2人掛けのシート。ひじ掛けのドリンク置き場は内側に、リクライニングのボタンは外側に配される。


電動リクライニングの操作ボタン。背もたれ、フットレストを別々に操作できるほか、温風(?)のボタンもある。


座席背面の様子。前の座席を倒してもシェル状の茶色いカバーが受け止めてくれるため、後ろに気兼ねなくリクライニングできる。

名古屋16:14発〜新横浜17:34着 のぞみ112号

 「ひのとり」を降りると、目の前にJRとの乗り換え専用改札があった。 実はこれまでさんざん名古屋から近鉄を利用していながら、 今回下調べをするまでその存在に気付いていなかったのだが、ここを通ると新幹線ホームまで3分ほどで行けてしまった。 乗換が間に合うか気を揉んだが、列車が入線するよりだいぶ前にホームにたどり着いた。
 名古屋からは「のぞみ」で新横浜に戻る。本当は、エクスプレス予約の「EXグリーン早特」を使って「ひかり」のグリーン車にでも乗ろうかと思ったのだが、 予約の段階で意外に混んでいたので止めた。それにしても、14分発の「のぞみ」の後、31分発の「ひかり」まで15分以上も列車がない(その次の「のぞみ」は36分発)とは、 これまでだと考えられない事態だ。それほど需要が減っているのか、と思う。
 やってきた「のぞみ」に乗ると、窓側の席はほとんど埋まっていたが、それ以外はほぼ客はいなかった。 乗客は1人で乗っているとおぼしきビジネスマンが多い。私のような不要不急の乗客はほとんどいないようだ。 この程度の乗車率ということは、JR東海の運転計画はやはり適切だということか。
 これまた久々となる285km/hの世界を楽しみ、1時間20分で新横浜に到着。