讃岐鉄道遍路

 師走のある日、所用で関西に帰省することになった。 そうなると当然(?)、寄り道して西日本の鉄道に乗ろうということになる。 そこで今回は、関西から程近い香川県をターゲットに選んだ。 香川といえばもちろん、県内に広く路線を伸ばす琴電の存在を忘れてはならない。
 また、香川といえばうどんで有名であり、数年前にちょっとしたブームもなった。 今回は琴電を乗りつぶしつつ、合間にうどんも楽しみ、 さらに欲張って岡山市内の路面電車にも乗車してきた。

目次

2010/12/4

■ 新横浜6:18発〜岡山9:12着 のぞみ1号

 まだ夜も明けぬ早朝の新横浜駅から、朝一番の「のぞみ」号に乗り込む。 12月といえば観光の閑散期のはずなのだが、どうしたわけかこの列車はほぼ満員の盛況である。 この日は天気も良く、相模湾から上る朝日と雲一つない富士山を眺めながら進む。
 京都、新大阪でほとんどの客を降ろし、それまで混んでいた車内はようやく落ち着いた。 ゆったりと支度をしつつ、岡山で下車する。

■ 岡山9:32発〜高松10:25着 マリンライナー17号

 岡山からは快速「マリンライナー」で四国へと渡る。 思えば、マリンライナーで四国へ渡るのはおよそ10年振りである(途中の茶屋町まで乗車したことはあった)。 その間、四国へは2度渡っているが、一度はサンライズ瀬戸、もう一度は南風に乗った。 マリンライナーは10年前から比べて車両が代替わりして、 2階建てのグリーン車が連結されるようになった。その先頭部にはパノラマシートが4席だけ存在する。 今日最初のお楽しみとして、そのパノラマシートに乗ることにする。
 パノラマシートに乗り込むと、まず左側のA・B席がC・D席に比べて嵩上げされているのが目に付く。 A・B席は運転台の後ろにあるので、眺望を確保するためのようだ。 運転士の背中が目に入るのでやや景色が見にくいが、 計器やマスコンが見えるのでこちらの方がいいという人もいるかもしれない。 一方、私の予約したD席の前には、ヘルメットをかぶった作業員が立っている。 この人は坂出まで添乗していて、仕方ないので空いていたC席に座って前を眺めた。 もしC席が埋まっていたら前が見えなかったわけで、ちょっと納得行かなかっただろうと思う。
 岡山を発車し、しばらく単線の線路を進む。新幹線の高架をくぐった所で複線に移行する。 宇野線は長らく単線ばかりで、輸送上のネックになっていたが、近年ようやく複線化が進んできた。 それでも単線区間はまだ残っているし、数100mだけ単線という残念な箇所もあった。 スピードもあまり速くなく、流しながらの走りが続く。
 茶屋町から複線の高架になると、列車はようやく本領を発揮し始めた。 トンネル内では120km/hほど出していたようだ。あっという間に児島にたどり着く。 児島からはJR四国となるため乗務員が交代し、女性運転士に代わった。
 左手に瀬戸内海を眺めつつ児島を発車し、本州側最後のトンネルを抜ける。 トンネルを抜けるといよいよ瀬戸大橋に入る。 前面を見てみると、勾配がけっこう急だ。吊橋なので当然といえば当然だが。 横の方に目を転ずると、小さな島がぽこぽこと頭を出しているし、本州と四国が結構短い距離で対峙している。 海を進んでいるというよりは、湖の真ん中に橋を掛けて列車を走らせているかのようだ。
 かなりの大きさを持つ与島を過ぎ、引き続き橋梁を進む。 前面を見ていると、長細い箱の中を延々と進んでいるかのようだが、 下を見てみると海面が丸見えで、かなりの高さがある。 橋を延々と10分近く進んだところで、ようやく四国に上陸。 巨大な化学工場の脇を通り抜け、巨大なデルタ線で丸亀方面への線路と別れ (ただしデルタ線全体が宇多津駅構内の扱いである)、坂出に到着。
 坂出からは高松まで無停車で進む。 車窓を見ていると、おわんをひっくり返したような形の山や、「セルフうどん」の看板が目に入り、 「ああ、香川に着たんだな」と思う。 やがて速度が落ち、頭端式の高松駅にゆっくりと滑り込む。 右手には、留置線から出てきたキハ40が並行して走る。 字幕は「牟岐」となっていて、そんな長距離運用もあるのかと思っているうちに高松駅に到着した。


マリンライナーに乗って、久々の四国上陸。


パノラマシートからの前面展望。

■ 高松築港10:33発〜長尾11:11着 琴平電鉄

 駅前広場が整備され、都会的な高松駅であるが、ゆっくり見物している時間は無い。 急ぎ足で信号を渡り、高松城の石垣の脇を通り過ぎて高松築港駅へ向かう。
 琴電は2003年に一度だけ乗った。もっともその時は、片原町から高松築港までのわずか一区間に乗っただけだから、 今回が事実上の初乗りといえる。 急いで1200円の一日乗車券を買い、列車に乗り込むと程なく発車した。 車両は元京急の4ドア車である。
 高松築港からは琴平線と長尾線の2路線が発着しているが、まず乗ったのは長尾線の列車である。 片原町を出ると盛り場のような所が見えてきた。飲み屋の裏通りのような所を走り、 瓦町に到着。デパートの天満屋があるなど賑やかな所で、琴電の中枢駅である。 ここにはこの後志度線経由で戻ってきて、さらに琴平へと乗り継ぐ予定だ。
 瓦町から先の車窓はごく平凡で、あまり印象に残る所はなかった。 ただ意外だったのは、車掌が乗務している点だ。この手の地方私鉄はたいていワンマン運転なのだが。 琴電は多くの区間で毎時3、4本が確保されており、ワンマンでは追いつかない程需要が多いのかもしれない。 有人駅もそれなりにあるようだった。
 列車は終始空いており、客を途中駅で少しずつ下車させながら進む。 学園通りという、駅前に大きなスーパーのある駅では割と多くの客が下車した。 高松築港から40分弱で、終点の長尾に到着した。


高松築港から琴電乗りつぶしをスタート。

■ 造田11:56発〜志度12:03着

 長尾からそのまま引き返すのはつまらないので、志度線の終点の志度を目指すことにする。 志度にはJR高徳線が乗り入れているが、長尾から一番近い高徳線の駅は3km弱離れた造田駅である。 長尾からタクシーで向かっても良いが、天気もいいし時間もあるので歩いていくことにする。
 長尾の駅から少し歩くと、長尾寺がある。 ここは四国八十八箇所の八十七番札所、つまり結願の一つ手前の札所である。 境内には遍路姿の人も何人か見られた。
 そこを過ぎると、あとは造田へのまっすぐな道をひたすら歩く。 歩きながら考えたのだが、全国津々浦々の私鉄を乗って歩いているこの状況は、 まるで遍路だな、と思った。本当のお遍路さんと違って功徳も何もあったものではないが、 くしくも今目指している志度には八十六番札所の志度寺がある。
 かなり早足で歩いたので、長尾から30分弱で到着してしまった。 造田は昔ながらの木造駅舎のある駅だが、つい最近無人化されてしまったらしい。 しばらく待ち、やってきた単行の気動車に乗り込む。 そういえば気動車に乗るのは随分久しぶりだな、と思う。 記録を遡ってみると、2009年12月に関東鉄道に乗って以来らしい。 オレンジタウンという、ニュータウンに新設された駅を過ぎると志度に到着する。


JR四国の1500系気動車。しばらく来ないうちに塗装が変わっていた。

■ 琴電志度12:26発〜瓦町12:59着 琴平電鉄

 志度でも少し時間があるので、うどんを食べていこうと思う。 駅を出て少し左に進んだところに、「牟礼製麺」というお店がある。 香川では一般的な「セルフ」という形態の店で、カウンターでうどんを受け取り自分で席まで運ぶ。 普通のかけうどんを頼んだが、さすが讃岐うどんだけあって熱い汁に入っていても麺にコシがあった。 値段も180円とびっくりするほど安い。 ちょうど昼時とあって、地元の人がひっきりなしにやってきており、なかなか繁盛していた。
 一瞬で食べ終え、時間が余ったので駅の周辺をうろうろしてみる。 駅の少し向こうはもう海で、魚の入った箱を積み上げている店もあって海に近いことを感じさせる。 一方、琴電の駅は小さな待合室と改札口があるだけのこじんまりとしたものであった。 駅に戻ると、もう発車が近いというのにまだ列車が到着していない。 結局、発車1分前になってようやくやってきた。
 これから乗る志度線の車両は名古屋市地下鉄からの譲渡車で、他の線の車両よりも一回り小さい。 志度線は線路の規格が小さいことが原因のようだ。 車体には、志度線のラインカラーであるピンク色を纏っている。
 10数人の客を乗せて志度を発車する。しばらくすると、右手に瀬戸内海が見えてきた。 このあたりは山が海岸線にまでせり出しており、 複雑な地形に沿って線路はかなり捻じ曲がっていて、列車はゆっくりと進んでいく。
 塩屋を過ぎると海から離れ、内陸を進んでいく。 しばらく進むと、お椀型の山に乳首のような形の岩が突起した光景が見えてきた。 これが源平の戦いで知られる屋島で、かつては琴電屋島駅から頂上へのケーブルカーに連絡していた。
 琴電屋島を出ると、再び海沿いを進む。途中、運河を何度も渡るが、 線形はあまり良くなくゆっくりとした運転を強いられる。 最後は席が一通り埋まるほどの客を乗せて、瓦町に到着。


志度線の車両は、他の線の比べて一回り小さい。

■ 瓦町13:04発〜栗熊13:46着 琴平電鉄

 瓦町駅構内の長い通路を通って、琴平線の乗り場へ向かう。 琴平線は琴電の本線格に当たる路線で、長さも他の2線よりも格段に長い。 車両は元京急1000系で、車内はなかなかの盛況であった。
 瓦町を出ると、住宅街を進んでいく。 1つ目の栗林公園駅を出ると複線から単線となるが、しばらく路盤は複線分確保された状態が続く。 最近作られた高架橋も複線対応になっているので、まだ複線化を諦めてはいないようだ。 また、瓦町を出てからずっと上り勾配が続くのが分かる。
 車庫のある仏生山を過ぎ、道路の高架下にある「空港通り」という駅を過ぎると、 一宮に着く。この駅は行き違いの線路の有効長がやたらと長く、 なぜこのような構造になっているのかと思う。 この一宮では昼間は半数の列車が折り返し、ここから先は30分間隔となる。
 その一宮を過ぎると車窓はだんだんと田舎びてきて、 小山と田畑、そして溜池が目立つようになる。香川県はもともと雨が少なく、かなりの数の溜池があるようだ。 瓦町を出てからずっと続いてきた上り勾配は、岡田駅のあたりでようやく終わった。 この駅の目の前にも大きな溜池がある。 陶と書いて「すえ」と読む珍しい名前の駅を過ぎ、栗熊という駅に着く。 ここは短い片面ホームがあるだけの簡素な中間駅だが、何故かここで下車する。


琴平線のラインカラーの黄色を纏った元京急1000系。

■ 栗熊14:16発〜琴電琴平14:30着 琴平電鉄

 香川県にうどん屋は数あれど、クルマでないと行けない店が多く、 琴電の駅から近いという店はあまり多くない。 そんな中、栗熊駅の近くに目ぼしい店があるというのを聞きつけ、途中下車することにした。
 駅前を少し歩くと、「まえば」という店に着く。大きな看板が特徴だ。 店内は古い食堂といった感じの内装で、棚に天ぷらが並べられている。 かけうどんを注文すると、うどんの入った丼を渡される。 カウンターの脇には湯の入った台があって、自分で適宜湯がく形となっている。 つゆも、自分でバルブをひねって入れることになっている。香川ではよくある形態らしいが、 初めてなので面食らう。 麺のコシを味わおうということで湯通しはあまりせずに食する。 あまり湯通ししなかったお陰で、うどんの角のしっかりとした感触が感じられる。 ちくわの天ぷらと合わせて280円と、こちらも驚くほど安い。
 駅に戻り、元京王5000系の琴平行きに乗り込む。 琴平に近づくにつれてだんだんと周囲の山が迫ってきて、ちょっとした峠越えのような箇所もあった。 前方に「こんぴらさん」で知られる琴平山が近づいてくると、まもなく琴平だ。 カーブしながらJR土讃線をまたぎ、終点の琴電琴平に着く。


香川には無数に存在するセルフうどん店の1つ「まえば」。 大きな看板が目立つ。

■ 琴平14:48発〜岡山15:41着 南風16号

 琴平はこんぴらさんの門前町で、数は少ないが観光客も見られる。 参道を逆方向に少し歩くと、JRの琴平駅に着く。木造の堂々たる駅舎だ。
 高知からやってきた特急「南風」に乗り、岡山に戻る。 南風に使われる2000系気動車は運転席後部の窓が大きく、 客席からデッキを挟んでちょっとした前面展望が楽しめる。 幸い上り列車は先頭が自由席で、しかも丸亀でたまたま「特等席」が空いたので、 期せずして2度目の前面展望を味わうことができた。
 南風は直線区間だとかなりスピードを出すのだが、瀬戸大橋上ではやや速度を抑えているようだった。 騒音対策などの理由があるのかもしれない。


洋館風ながらどことなく和のテイストも感じさせる琴平駅舎。

■ 岡山駅前15:46発〜清輝橋15:54着 岡山電気軌道

 岡山に到着し、そのまま新幹線に乗り継いでもいいのだが、 せっかくなので岡山の市電を乗りつぶしていくことにする。 市電は東山線と清輝橋線の2路線があるが、どちらも距離は短く、 効率よくやれば1時間も掛からずに乗りつぶしが可能だ。
 駅を出て地下街を通って市電乗り場に行くと、ちょうど清輝橋行きの電車が発車を待っていたので乗り込む。 10人ちょっとの客を乗せ、発車。車両はアルナ工機製で、意外と新しく昭和60年代の製造であった。
 岡山駅前を発車すると、幅の広い大通りの真ん中を進む。 道路沿いにはデパートやショッピングセンターが立ち並び、なかなかの都会だ。 柳川電停を出ると東山線から分岐し、引き続き大通りを直進する。 しばらくすると、終点の清輝橋に到着。乗務員から一日乗車券を買って下車する。 下車するともう折り返し電車の発車時刻なので、今乗ってきた電車に乗り込む。 ちょっと恥ずかしいが、この清輝橋まで足を伸ばす電車は10分に1本しか走っていないので、致し方ない。


まずは清輝橋線を乗りつぶし。

■ 清輝橋15:58発〜新西大寺町筋16:01着 岡山電気軌道

■ 西大寺町16:10発〜東山16:15着 岡山電気軌道

■ 東山16:20発〜岡山駅前16:32着 岡山電気軌道

 清輝橋を出て、3つ目の新西大寺町筋で下車する。ここで下車したのは、 東山線の西大寺町までは400m程しかなく、柳川まで戻るよりはここで乗り継いだ方が早いと思ったからだ。 シャッターどおりの一歩手前といった感じの商店街を歩き、西大寺町へ向かう。
 電停に着くと、目の前で電車が出て行ってしまったが、東山線は5分おきに電車が走っているので余裕だ。 次の電車に乗り込むと、いきなり2車線の細い道に入り、旭川を渡る。 次の小橋、中納言電停はどちらも安全地帯しかなく、乗り降りはかなり危険そうだ。
 再び大通りに出て、目の前に小山が迫ってきたところで終点の東山に到着。 東山は岡電の本社や車両基地のある中枢部で、電車が何台も留置されていた。 5分程待って、岡山駅前へと戻る。実はもう一本待てば、「MOMO」の愛称を持つ低床車両に乗れたのだが、 予定していた新幹線に間に合うかどうか微妙なので諦めた。
 岡山駅前に戻る途中、和歌山電鉄の「たま電車」と同じラッピングをした車両とすれ違った。 岡電は和歌山電鉄の親会社なので、コラボレーションといったところか。


終点の東山に到着した岡電の車両。

■ 岡山16:49発〜新大阪17:35着 のぞみ44号

 岡山からはのぞみ号で一気に大阪へ向かう。とはいえ、 岡山から新大阪は1時間と掛からない。 姫路を過ぎ、高砂あたりの工場の煙突や明石海峡が見えたところで日が暮れた。
 新大阪で在来線に乗り換えて大阪駅に向かうと、駅を覆う大ドームが完成しており、 南北の新駅ビル同士を結ぶ橋上通路が一部開放されていた。 新駅ビルは来年春に完成するとのことで、どのような姿になるか今から楽しみだ。

私鉄乗りつぶし状況

新規乗車キロ数

会社名路線名乗車区間キロ数
高松琴平電気鉄道琴平線片原町〜琴電琴平32.0
長尾線瓦町〜長尾14.6
志度線瓦町〜琴電志度12.5
岡山電気軌道東山本線岡山駅前〜東山3.1
清輝橋線柳川〜清輝橋1.6
合計63.8