私の乗りつぶしルール

 「乗りつぶし」といっても、別に公式なルールは何もない。 そのため「乗りつぶし」を目指すためには、まず自分でルールを決める必要がある。 ところが、日本の鉄道の中には一筋縄ではいかない路線も多く、 ルール決めにはそれなりの鉄道に対する知識が必要となる。

目次

「鉄道路線」って?

 「乗りつぶし」のルールを最も単純に言い表せば「日本の全鉄道に乗ること」となるだろう。 しかし、漠然と「鉄道」と言われても日本にどれほど鉄道路線があるかは分からない。 ディズニーランドのアトラクションの鉄道とか、極端な話個人が勝手に線路を引いた鉄道だって、 立派な「鉄道」ではあるが「鉄道路線」ではないだろう。
 そこで、日本のあらゆる「乗り物」を管轄する国家機関である国土交通省が「鉄道」としてお墨付きを与えた路線であれば、 「鉄道路線」と言い切ることができるだろう。 国土交通省が鉄道路線として認可した路線の一覧が「鉄道要覧」という本にまとめられている。 これに乗りつぶせば「日本の全鉄道に乗った」と言い切れるだろう。
 ところが、鉄道路線の中には貨物専用のものや、年に数回しか旅客列車が走らないものもある。 「普通の」鉄道ではないものもある。 具体的には、ケーブルカー、モノレール、トロリーバスなどである。 ケーブルカーは線路が引いてあるので鉄道っぽいが、 そうなるとゴンドラやリフトの立場はどうなるだろう?トロリーバスは「鉄道」だろうか? 名古屋には、「ガイドウェイバス」といって、 一部区間でバス専用線をハンドル操作なしで走る乗り物があり、 「鉄道要覧」にも載っているが、これは「鉄道」なのだろうか?
 かといって、タイヤで走る路線を乗りつぶし対象から除外するという定義を加えると、 「ゆりかもめ」や神戸の「ポートライナー」のような新交通システムはタイヤで走るため除外されてしまう。 さらには、札幌の地下鉄も車輪がタイヤとなっているため、地下鉄でありながら除外されてしまう。
 このように、「乗りつぶし」の対象を定めるのはとても難しく、人によって流儀は様々のようだ。

「JRの路線」の定義

 このように、「乗りつぶし」の対象を決めるのはとても難しい。 そこで私は問題を単純化するため、とりあえず最初の乗りつぶし対象は「JRの全路線」とすることにした。
 乗りつぶしの対象を「JRの全路線」と定めたが、これも解釈によっては色々な定義ができてしまう。 まず、「宮島航路」というJR直営の航路がある。船はどう考えても鉄道ではないが、 JRの営業キロが振られており、券売機で普通に鉄道と通しのきっぷも買えるし、 18きっぷでも乗れる。これは「JRの路線」に加えていいだろう。(注:現在、宮島航路はJR直営ではなくなり、 乗りつぶし対象に加えないのが一般的になりつつありますが、ここではルール作成当時のままの記述を残してあります。)
 次に、貨物専用の線だが、これには次の2種類がある。

(a)
JR貨物が所有する路線
(b)
JRの旅客会社(東日本、東海など)が所有し、JR貨物が線路を借りて走らせている路線

 (a)は文句なく乗車対象から外していいだろう。ところがJR貨物の路線のうちほとんどが(b)に属する。 (b)の中でもほとんどの路線は旅客会社によって旅客列車が運行されていて、JRの時刻表にも掲載されているため、当然乗車対象になる。 ところが、(b)の中には旅客列車が走っていない線、 つまり旅客列車の所有でありながら貨物列車しか走っていない線があるのだ。
 さらにややこしいことに、それらの線にはまれに臨時列車や団体列車が走ったりする。 団体列車に乗せてもらうわけには行かないし、 年に数度の臨時列車に乗れるとも限らない。このような、JRの時刻表に出てこない幻の路線は全国に結構ある。

「運賃計算のための営業キロ」の有無

 JRの時刻表に出てこないような線は乗りようがないし、さすがに除外してもいいだろうと思いたいが、そうもいかない。 毎日何本も列車が走るメジャーな線でありながら、JR時刻表の巻頭の路線図に書かれていない路線もあるのだ。 具体的には下のものがある。

(1)
山手線 大崎〜横須賀線 西大井(湘南新宿ラインが使用)
(2)
東海道貨物線 羽沢横浜国大〜東戸塚付近(特急「湘南」の一部が使用)
(3)
中央線 国立〜武蔵野線 小平(「むさしの」号が使用)
(4)
東北本線 さいたま新都心付近〜武蔵野線 西浦和(「むさしの」号が使用)
(5)
東北本線 さいたま新都心付近〜武蔵野線 武蔵浦和(「しもうさ」号が使用)
(6)
本四備讃線 児島〜予讃線 坂出(快速「マリンライナー」が使用)

 中には湘南新宿ラインのように一日何十本も列車が走る線もあるのに、 これらの路線が路線図に描かれていない理由は何だろうか。 最大の理由は「運賃計算のための営業キロ数が設定されていない」ためだと思う。 例えば、大崎から西大井までを湘南新宿ラインで移動したとすると、 きっぷの値段は大崎〜品川〜西大井と移動したときのキロ数で計算される。 遠回りのキロ数で計算させられて随分損しているように思えるが仕方ない。 時刻表を見た人が、大崎から西大井までの(品川を通らない)営業キロ数を必死で探し回らないようにするための配慮だろう。
 ところがさらにややこしい事に、運賃計算のためのキロ数が設定されていないにもかかわらず、 JR時刻表の路線図に書かれている線がある。

(7)
函館本線 大沼〜(仁山、渡島大野を経由せず)〜函館本線 七飯(下り普通列車の一部が使用)
(8)
東海道本線 大垣〜(垂井を経由せず)〜東海道本線 関ヶ原(下り特急列車が使用)
(9)
東海道本線 新大阪〜(大阪を経由せず)〜大阪環状線 西九条(特急「はるか」「くろしお」などが使用)
(10)
新幹線(東北新幹線の盛岡以北など、並行在来線のない区間を除く)

 (7)〜(9)が書かれている理由は正直分からない。 (10)が「運賃計算のための営業キロ数が設定されていない」路線な訳がないだろうと思われるかもしれないが、 「新幹線の営業キロは平行在来線の営業キロを用いて算出する(一部の例外を除く)」という規則があるため、 この条件に当てはまるのだ。

乗車対象路線の決定

 話が長くなったが、このようにJRだけをとっても乗車対象路線を決めるのは実に難しい。しかし、完乗を目指すからには、 上記のようなグレーゾーンの路線の扱いを明確に決められる単純明快なルールがほしい。
 そこで、乗りつぶしのルールは以下のように定義することにした。

「JR時刻表」(交通新聞社発行の大判の時刻表) の巻頭の路線図に、JR線として黒または青の太線で描かれている路線を乗車対象とする(宮島航路、新幹線を含む)。 路線図に描かれていないJR線についてもなるべく乗るよう努力する。
並行在来線が存在する新幹線は、在来線と別路線として扱う。新在両方の路線に乗らないと完乗とはみなさない。
ある路線を一方向から乗りつぶせば完乗とみなす。上り、下り両方向から乗る必要はない。 上下線が(地理的な理由などで)大きく離れている場合に関しても同様とする。
乗車しようとする区間が不通で、バス等で代行輸送が行われている場合、 その代行輸送のルートが鉄道線のルートから大きく逸脱しておらず、 代行輸送乗車時に鉄道線からとほぼ同じ車窓を見ることができれば、鉄道線に乗車したものとみなす。 当然、路線復旧後は乗りなおすよう努力する。
線路付け替えや駅移転に伴う改キロ、ルート変更があっても、乗り直しは必要ない。 ただし、路線の延伸があった場合は乗りつぶし対象とする。
乗車の形態は特に問わない。夜行列車で寝て過ごしても、 夜中に乗っても完乗とみなすが、当然なるべく景色を見るよう努力する。

 つまり、上に書いた(1)〜(6)は乗らなくてもよいが、(7)〜(10)は乗車対象ということになる。一番最後の項目は 完全な逃げ道だが、お許しください。

JR以外の乗りつぶし対象路線

 以上のようにJR線の乗りつぶし対象路線を定め、無事乗りつぶしを終えた。 しかし、そうなると欲が出てくるもので、 本来乗るつもりのなかった私鉄路線も乗りつぶそうと思うようになってきた。
 そこでJR以外の私鉄についても乗りつぶし対象路線を定義しないとならない。 JR時刻表の巻頭路線図では、路面電車などが一部省略表記されているため、これを当てにするわけにはいかない。 そこで、「鉄道事業法」などというちょっと堅苦しい法令用語を持ち出して、 以下のように乗りつぶしルールを定義することにした。

鉄道事業法または軌道法による認可・特許を受けた事業者が運営する普通鉄道、軌道、 モノレール、新交通システム、浮上式鉄道を乗車対象とする。 ケーブルカー、ロープウェイ、トロリーバスは対象としない。
定期的に旅客列車が運転されている路線以外は乗車対象としない。 ただし、季節を限定して運転する路線は乗車対象とする。
定期的に旅客列車が走る区間であっても、 独自の営業キロを持たない短絡線は乗車対象としない。
同一の区間を、複数の第一種または第二種鉄道事業会社が重複して運営している場合は、 いずれか1つの事業者が運行する列車に乗車することで、その区間は乗りつぶしたものとみなす。
同一の区間が、一つの事業者の複数路線に所属する場合は、 いずれか1つの路線を走行する列車に乗車することで、その区間は乗りつぶしたものとみなす。 ただし、地下鉄線に関しては両方の路線に乗車しないと、その区間を乗りつぶしたものとみなさない。
鉄道路線を運営する事業者が変更となった場合、 その路線の乗りつぶし記録は継承される(再度乗り直す必要はない)。
「JR乗りつぶしルール」の「三」〜「六」はそのまま適用する。

 まず「一」であるが、鉄道事業法または軌道法を持ち出すことで、 ディズニーランドの汽車など、いわゆる遊戯用の鉄道を乗りつぶしの対象外としている。 鉄道事業法または軌道法による認可・特許を得た路線の一覧は、「鉄道要覧」という本に収録されている。 ただし、私もこの本をまともに見たことはなく、 「乗りつぶしオンライン」 などのサイトに掲載された情報を二次的に見ているだけである。
 また、ケーブルカーやトロリーバスもひとまず対象外とすることにした。 ケーブルカーの類は、駅が他の鉄道路線の駅と隣接していない場合が多く(大手私鉄の所有する路線を除く)、 また物見遊山の用に供される性質が強い。 トロリーバスも、昔は都市交通の一翼を担っていたが、 今は立山黒部アルペンルート上の2路線が残るのみだ。
 従って、ケーブルカーやトロリーバスは現状、一般の鉄道が構築する「公共輸送のための路線網」に属しているとは言いがたい。 そういった路線の乗車記録を、一般の私鉄線の乗車記録と同列にカウントすることには違和感を感じるため、 当面は乗りつぶしの対象外とする。
 「二」では、臨港鉄道などの貨物専業路線を乗車対象から除外している。 ただし、黒部峡谷鉄道のように一部季節は運休するような路線は乗車対象とした。
 「三」では、小田急新松田・JR松田両駅構内の短絡線(「あさぎり」が使用)や、 近鉄大阪線・名古屋線間の短絡線(名阪直通特急が使用)などを想定している。
 「四」だが、第一種・第二種が重複している区間としては東京メトロ(第一種)・都営地下鉄(第二種)白金高輪〜目黒間、 JR(第一種)・井原鉄道(第二種)総社〜清音間などが挙げられる。 また、第二種が重複している区間としては高速神戸〜新開地間(阪急・阪神が第二種)、 りんくうタウン〜関西空港間(JR・南海が第二種)などが挙げられる。 これについては、いずれか一社の列車に乗ればよいものとした。
 「五」は、阪急梅田〜十三間(神戸本線、宝塚本線が重複:京都本線は宝塚本線の線増扱い)などが実例である。 これもいずれか一方に乗ればよいことにした。
 ただし、このルールを単純に適用すると、例えば東京メトロの渋谷〜表参道間(銀座線、半蔵門線が重複) なども片方乗ればOK、ということになる。 しかし、銀座線と半蔵門線の渋谷駅は実際には大きく離れていて、 この区間を一体の路線として考えるのは少し無理がある。 また、時刻表の路線図を見ても、両線は別個の線として書かれているのが普通である。 そのため、「地下鉄は例外」というルールをつけることにした。
 「六」は、例えばJRの路線が第三セクターに移管された場合、 乗りなおしは必要ないことを意味する。